北洋漁業などにより栄えていた70年以上前の函館で、数少ない娯楽の場であった映画館。冨士冷菓の前身である当時の映画館「冨士館」の売店では、アイスキャンディー、ソフトクリームを販売していました。そこから店舗の移転などを経て、冨士冷菓は今年創業76年を迎えました。40年ほどアイスクリームを作り続けてきた中村久仁子さんは、昔から変わらない味を作りたてでお届けしたいと、今もアイスクリームを少しずつ手作りしています。
代表取締役を務めるのは中村彰宏さん。終戦直後の1947年、彰宏さんの義理の曽祖父にあたる方が、映画館「冨士館」を創業。その後は、久仁子さんの父が福岡県まで出向いて試食し、開発した抹茶味のアイスクリームが評判になったことをきっかけに小売りを開始し、現在の冨士冷菓となりました。
2人は、アイスクリームの素材選びに努力を惜しみません。久仁子さんは「地元で調達できるものは、調達したいのが根本にある」と語ります。北海道産の牛乳、江差産のキウイ、北斗市のトマトなど、地産地消を心掛けながらおいしさを追求しています。さらに、香料はできるだけ使わず、こだわり抜いた素材の香りを最大限楽しめるよう、製法は手作りを貫いています。また、卵を使わず練乳で味を整えることで、昔ながらの懐かしい味わいを生み出しています。古き良き懐かしい味わいとアンテナの高さを織り交ぜ、たくさんの方に楽しんでいただける、さらなるおいしさを目指しています。
生まれも育ちも函館という久仁子さん。地元でアイスクリームを長く作り続けられたのは、「うちが今までやってこれたのは、古くからの常連さんに支えられたから。だから、昔からのお客さんは大事にしていきたい」。彰宏さんも「地元に愛されなきゃ、続けられないから」と、長く愛し続けてくださったお客さまの存在があったからだと語ります。
獺祭(だっさい)酒粕あいすをきっかけに海外への輸出を視野に含めつつも、守り続けてきた変わらないあの懐かしい味を、お2人はお客さま、地元からの愛に応えながら、これからに引き継いでいきます。
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道南を中心にこだわりの食品を集めた通販サイト「北海道地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)