北海道屈指の老舗豆腐メーカーである日乃出食品は1929(昭和4)年に松前町で創業しました。現在は七飯町に本社を置き、62(同37)年に開発された30日間常温保存が可能な「やっこさん豆腐」は同社の代表商品として道南地方で広く親しまれています。
現在、老舗のかじを取る4代目代表の工藤英洋さんは松前町出身。25歳の時に家業である日乃出食品に入社します。入社当初は、右も左もわからない状況で豆腐を作り続けていく中で、豆腐メーカーとして一つの違和感を抱きます。それは多くの消費者が豆腐を買う際に判断する軸は値段だということです。
値段に合わせて商品を作ってしまうと、安い原材料を使い、効率的な製法を選択せざるを得ません。これでは、豆腐の味にお客さんは満足しているのか、また、豆腐を作る自分たちもこの現状に満足しているのかが分からない状態でした。そこで、自分たちの豆腐はどう評価されるのかを確認するため、全国豆腐品評会に出品することを決意します。
品評会では、考えられないような柔らかい豆腐や濃い味の豆腐など、値段に合わせた豆腐作りではなく、つくり手の思いがあふれた豆腐と多く出会います。職人気質な世界が色濃く残る豆腐業界ですが、カジュアルに原材料や製法のことについて話し合う姿が見られ、大きな刺激を受けました。この経験が、外の世界を知ることとなり、自分たちの豆腐づくりを見直すきっかけとなりました。
そうして、2018年に、生豆腐の移動販売「Jimo豆腐Soia」をスタート。「地元で採れた物を、地元で加工し、地元で消費する」をコンセプトにつくる生豆腐は、甘く濃厚な風味を楽しめるとしてファンを増やしています。さらに、消費者の要望に応える形で、今年8月に直売所をオープン。直売所では豆腐だけでなく豆腐を使用したドーナツや惣菜、豆乳ソフトクリームなどを購入することができ、豆腐の魅力を余すところなく消費者に届けています。
「『Jimo豆腐Soia』には、日乃出食品としての、豆腐作りにかける想いを全て詰め込みました。地元で採れた大豆で豆腐本来のおいしさをたくさんの人に届けたい」と力強く語る工藤さん。その真っすぐな想いで、これからもおいしい豆腐を作り続けていきます。
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道南でつくられるこだわりの食品を集めた通販サイト「道南地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)