函館で唯一のみそ・しょうゆの製造元として1942(昭和17)年から函館史に足跡を残し、キッコーカワイチ味噌(みそ)・醤油(しょうゆ)の屋号を背負ってきた道南食糧工業株式会社。以前は、各地域で生産、消費されていた味噌・醤油の文化を伝えていく役割も担いながら、水産加工に用いられるたれをはじめ、しょうゆ、みそ、お土産製造、アルコール製剤部門の5部門で加工品を開発してきました。
取締役総務部長を務めるのは、函館市出身の河野孝史さん。工場のある栄町で18年間過ごし、進学を経て都市圏で勤務後、祖父が創業した家業を継ごうと帰郷。家族とともに会社を営んでいます。創業から長く続けてこられたのは「真面目に、誠実にやること。なんでも正直にやってくしかないですよね」という言葉に表れるように、すべての仕事に対する真摯(しんし)な姿勢があるからだと語ります。取引先と自社の双方が望む結果になるようにやっていかないと長続きはしない。そういった姿勢で、地域の食品加工の現場の大切な受け皿として、さまざまな依頼に応え続けてきました。
同社の強みは、蓄積されたノウハウの豊かさと、小回りのきく柔軟さです。お客さまがイメージする味に対し、これまでの経験から生み出される提案を重ね、丁寧に調整していきます。場合によっては一からお客さまと手探りで味を作り出すこともあるそうです。そうして生み出してきた加工品は200種類にも及びます。また少量生産にも対応しており、お客さまの多様なニーズに対しカスタマイズしながら、きめ細やかに開発を行ってきました。創業から80年間、2部門から5部門へと生産部門を増やし、時代、需要の移り変わりにもしなやかに応じながら、函館の歴史とともに歩みを進めてきました。
新しいことに挑戦したいと、今後は自社製品の開発にも意欲を示しています。衰退していく水産加工現場、捕れる魚種の変化。近年函館周辺でも捕れるようになったブリやサバに着目した、地域密着の商品開発も視野に入れているそうです。水産業から地域と関わり続けながら、堅実に課題解決の一手を模索しています。そういった自社製品の取り組みの中で、函館で醤油と言ったらキッコーカワイチ、と屋号が認知され、好きな地元の食卓に自社製品が並び、定着する未来を見据えています。道南食糧工業株式会社は20年後、30年後その先を描いていくため地道に函館の食を支えていきます。
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道南を中心にこだわりの食品を集めた通販サイト「北海道地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)