1932(昭和7)年、北海道最古のコーヒー豆卸問屋が函館市で創業してから90年。コーヒーの歴史が積み重なってきたこの函館で、12年前に開業し、物語を紡ぎ続けてきた「珈琲文庫」。20年間の業界での経験、人脈を生かした良質な生豆をリーズナブルな価格で卸し、毎週土曜には市内の焙煎工場で生豆の焙煎を行っています。
代表を務めるのは函館出身の川崎宏さん。父親からの影響もあり、コーヒー好きになったのは小学生の頃。販売員の資格を取り、コーヒー業界で20年間勤務し、コーヒーの知識を深めました。その後、退職し函館に戻ってからもコーヒーへの熱が冷めることはなく、いい豆を仕入れ、自分が飲むコーヒーを自分で作りたいという思いから焙煎機を購入したところ、その味の良さが評判を呼び知人からも焙煎を依頼されるように。そうして口コミが徐々に広まり、2010年に地元に根ざしたコーヒー専門店「珈琲文庫」を設立しました。
川崎さんは、自分が選んだ生豆を煎り豆にしていく工程に静かに熱意を込めます。「お客さまと一緒に考えて決めた味を、僕はどう再現できるかっていうところが一番大事なところだな」と。生豆は、20年以上前に出会った信頼できる方からしか仕入れません。年間100種類もの生豆の中から、常時25種類ほどを選抜、その豆に合う焙煎方法を見つけます。生活の合間に飲むものだからこそ、函館の人が毎日気軽に飲むことができる価格帯で、どこまでおいしさを引き上げられるか。日々、川崎さんのそのこだわりへの探求は尽きません。
昔から故郷・函館が好きだった川崎さん。函館の人が函館を好きと言えない現状に「このままじゃ駄目だ」と感じたと語ります。新鮮な海産物など質のいい素材に触れてきた函館の人は既にいいものを受け入れる土壌を持っているはず。だからこそ、自分のコーヒーが、函館を好きになってもらうきっかけになれたらと語ります。昭和初期から続く函館のコーヒー文化。信頼関係と、飽くなき挑戦によって生み出され続ける川崎さんの煎り豆が、これからは人と人をつなぐ架け橋になる。1杯のコーヒーがつなぐものの可能性に夢を託し、川崎さんは今日もコーヒーと向き合い続けます。
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道南を中心にこだわりの食品を集めた通販サイト「北海道地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)