子宮溜膿腫と排膿散及湯
子宮溜膿腫は主に介護を受けている高齢者に多い疾患です。高齢者はエストロゲンの枯渇により膣粘膜が乾燥、委縮します。流れなくなった川の水が濁るのと同じ原理で、帯下が黄色になることがあります。多少パッドが汚れるといった症状が出ますが、程度が軽い場合は様子を見て差し支えありません。これを萎縮性膣炎と呼んでおります。体を動かせている場合はこの状態で留まっています。
寝たきりになると、子宮内外の分泌物の出入りが停止しがちになり、何らかの感染が子宮内に起こると、子宮溜膿腫になります。子宮内腔に膿が溜まり、やがて膿性の帯下が多量に出てくるようになります。パッドを頻回に交換したり、悪臭がしたり、発熱する場合もあります。抗生物質治療と、子宮腔内洗浄が主な治療法ですが、残念なことに再発を繰り返し難治性になる場合が多く、また、寝たきりの人に子宮腔内洗浄ができる体位をとらせるのも困難なことが多いのです。しかし抗生物質などの薬物治療だけでは症状の改善が難しいことが多いという悩みがあります。
漢方薬で排膿散及湯という処方があります。文字通り、膿の排出を促進する効果があります。桔梗、枳実、芍薬、生姜、大棗、甘草と6種類の生薬からなる処方です。桔梗と枳実で抗菌と膿を破り、芍薬で出口を広げてスムーズに排膿し、同時に生姜・大棗・甘草で組織を修復する作用があります。抗生物質単独治療よりも治りが早く、症状改善後は排膿散及湯を最小限度の用量にして継続すれば再発予防にもなります。手間が掛かり、患者さんの苦痛を伴う子宮腔内洗浄をしなくても、良好に治療できています。
排膿散及湯はほかにも、難治性の化膿性疾患全般、例えばバルトリン腺膿瘍、副鼻腔炎(蓄膿、歯周囲炎(歯槽膿漏)などに対して、急性期には抗生物質併用、寛解期には単独で寛解維持・増悪予防効果があることを経験しております。
(ハコラク 2023年2月号掲載)
略歴
昭和50年、札幌医科大学卒業。昭和60年に医学博士学位取得後、同年より市立室蘭総合病院産婦人科科長に就任。昭和62年より、秋山記念病院副院長に就任。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本東洋医学会漢方専門医。
秋山記念病院
函館市石川町41-9
☎0138-46-6660(代)
http://akiyama.hakodate.jp/
■診療科目/産科、婦人科、乳腺外科
■診療時間/〈産科・婦人科〉月・火・木・金 9:00~12:00
15:00~18:00
水 9:00~12:00
土 9:00~14:00
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水・金 9:00~11:40
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