貧血と消化管疾患
「貧血」について一度は耳にしたことがあると思いますが、血液の成分である赤血球に含まれる「ヘモグロビン」という色素の濃度が低下した状態を指します。男性、女性で基準値は異なりますが、血液検査を行った際にはこのヘモグロビンの数値で貧血の有無を判定します。貧血の原因で最も多いのは鉄欠乏性貧血ですが、ビタミンや葉酸など栄養素の欠乏、アルコール多飲によるもの、長らく腎臓の機能が悪い場合(腎性貧血)、血液疾患などさまざまな要因があります。
今回は鉄欠乏性貧血に限ってお話ししますが、文字通り体内の鉄分が不足することで赤血球の中に含まれるヘモグロビンが作れなくなることで生じる貧血です。実際に鉄欠乏性貧血に対し、鉄分のお薬を毎日服用されている方もいらっしゃると思います。鉄欠乏に至る原因は複数ありますが、女性の方であれば生理や婦人科疾患(子宮筋腫など)の可能性も考えられます。私の専門である消化器内科領域では消化管出血(胃や腸からの出血)による鉄欠乏性貧血が最も多く、内視鏡検査によってその原因検索を行います。
消化管内視鏡検査は上部(胃カメラ)と下部(大腸カメラ)に分けられ、その前準備や検査方法にも違いがあります。上部の場合、当日朝食を摂取しないで来院するだけで特別な前処置は必要なく、検査時間も5~10分程度です。一方で下部の場合、前処置として前日からの食事制限に加え、当日朝から腸管洗浄剤(2ℓ程度)を服用し、何度も便を出す必要があります。
上部・下部消化管内視鏡で貧血の原因となる疾患が認められなかった場合は、貧血の推移をみながら小腸の検査やほかの貧血を来たしうる疾患の検索を行っていきます。
全国で大腸がん罹患率は年々上昇しており、道内において取り分け道南地区は大腸がん罹患者数が多いというデータもあります。近年内視鏡スコープの改良や細径化が進み、さらには鎮静剤を用いた検査も普及してきています。貧血や自覚症状がなくても、一度内視鏡検査を受けられることをおすすめします。
略歴
平成18年、岩手医科大学医学部卒業後、札幌医科大学消化器内科講座に入局し、道内の関連病院勤務を経て、令和5年、函館新都市病院消化器内科に着任し、科長に就任。日本消化器病学会消化器病専門医。日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。
(ハコラク 2025年5月号掲載)