無痛分娩をしてみたいと思ったら
出産はさまざまな「痛み」を伴います。子宮収縮による陣痛、膣や会陰、骨盤といった産道を通る痛みが挙げられます。出産の痛みは言うまでもなく激烈で、女性にとっては出産における最も大きな悩みの一つでしょう。
日本では海外と比較して無痛分娩の割合は低かったのですが、近年は徐々に増加しています。2023年の日本産婦人科医会の報告によると分娩の11・6%が無痛分娩であったとの報告があり、18年報告の5.2%から2倍以上に増加しています。函館市内においても複数の病院で無痛分娩を行っており、ニーズの高まりを感じています。
無痛分娩で最も普及している方法として硬膜外麻酔があります。背骨の間から硬膜外腔へチューブを留置し、局所麻酔薬を投与することで産痛を緩和します。麻酔薬の効き方や痛みの感じ方は人それぞれですが、大幅に産痛がやわらぐ方がほとんどです。費用は分娩費用とは別に10~15万円程度が追加となる場合が多いようです。誘発剤を用いて計画分娩で行う施設もあれば自然陣痛で行う施設もあります。
無痛分娩のメリットとしては産痛を軽減できる以外にも、消耗が軽減され産後の回復が早いことや、穏やかな出産であることが挙げられます。デメリットとしては分娩中の食事・動作に制限があること、分娩時間が長くなること、吸引・鉗子分娩が増加すること、麻酔に関する副作用の可能性などが挙げられます。吸引・鉗子分娩では会陰の傷が大きくなることも多く注意が必要です。分娩停止や赤ちゃんの状態が悪いときは、通常分娩と同じように帝王切開に切り替えます。
麻酔特有の副作用では呼吸ができなくなる高位脊髄くも膜下麻酔や、意識障害・不整脈を引き起こす局所麻酔中毒は低頻度ですが、非常に重篤で、高度な救急対応が必要になります。医療者からの説明をよく聞いた上で、自分が一番納得できるお産をご夫婦でご検討ください。医師・助産師が自己選択を尊重し十分な手助けをしてくれるはずです。
略歴
平成19年、札幌医科大学医学部卒業後、平成27年から市立函館病院に勤務。平成31年、産婦人科科長に就任。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医。母体保護法指定医。医学博士。
(ハコラク 2025年5月号掲載)