安全、安心な医療を目指す鍵
~心理的安全性の重要性~
医療の現場は、少しの間違いが患者さんの健康に直結する緊張感が満ちた環境です。そのような環境で安全な医療を行うためには、単に知識や技術の向上を図るだけでなく「心理的安全性」を確保することが大切です。心理的安全性とは、チームのメンバーが「自分の考えや気持ちを自由に伝えても大丈夫」と感じられる状態のことを指します。このような安心感があると、医師や看護師など、さまざまな職種の人たちがお互いの意見や疑問を共有しやすくなり、それが患者さんにとって安全な医療につながるのです。
例えば、医師は患者さんの状態に応じて治療方針を立てますが、その際に看護師が「別の治療方法のほうが患者さんの思いに沿っているのでは?」と感じたり、薬剤師が「その薬は安全ではないのでは?」と感じても、心理的安全性がない環境では発言することをためらうかもしれません。しかし、心理的安全性が確保された環境では、誰もが安心して「患者さんのために大切な意見だ」と発言することができ、その結果、チーム全体で患者さんにとって最善の方針を模索することが可能となります。
また、「自分の考えや気持ちを自由に伝えても大丈夫」と感じられる医療チームの存在は、患者さんにとっても安心感をもたらします。患者さんやご家族が治療に対する不安や疑問を気兼ねなく相談できる環境があれば、医療者はその声に耳を傾けながら、より良く、より安全な医療を提供することが可能になります。心理的安全性を高めるために必要なのは、お互いを思いやる姿勢です。特にリーダーが部下や同僚、ほかの職種の意見を否定せずに、しっかり受け止めることが大切です。「あなたの意見が必要です」と積極的に伝えることで、チーム全体で安心して話せる空気を作り出し、建設的な議論がしやすくなります。
患者さんの命を守る医療の質と安全のためには、専門職同士の信頼関係と協力が欠かせません。その土台となる心理的安全性を意識して全ての医療スタッフが安心して能力を発揮できる環境を整えることが、より良い、より安全な医療を生み出すのです。
略歴
平成20年、千葉大学医学部卒業後、さいたま赤十字病院、沖縄県立北部病院、同県立中部病院、同県立南部こども医療センター、同県立八重山病院勤務を経て、平成29年、市立函館病院小児科に着任。令和5年から同科主任医長、同院医療安全室室長に就任。日本小児科学会小児科専門医。
(ハコラク 2025年3月号掲載)