直腸がんに対するロボット手術
直腸は大腸の一部で、肛門に最も近い位置にあります。骨盤内の狭い空間に存在し、周囲には膀胱、子宮(女性)、前立腺(男性)などの重要な臓器があるため、直腸がんの手術では、がんを含む腸管と転移の可能性がある周囲のリンパ節を慎重に切除する必要があります。
現在、直腸がんの手術では腹腔鏡手術が広く普及しています。これは開腹手術に比べて傷が小さく、術後の痛みが少ないことに加え、出血量の減少や早期回復が期待できるためです。一方で従来の腹腔鏡手術には、直線的な器具による操作の制限や手ブレといった課題も指摘されてきました。これらの弱点を克服し、さらに発展させた手術法として、近年ロボット手術が急速に普及しています。
ロボット手術は、執刀医が患者さんの隣に置かれたコンソール(操作席)に座り、ペイシェントカート(ロボット)を遠隔操作して行う低侵襲手術です。腹腔鏡手術と同様に、腹部に小さな穴を開け、カメラでお腹の中を観察しながら手術を進めます。ロボットには4本のアームが備わり、カメラと3本の鉗子を用いて操作を行います。
ロボット手術の最大の特長は、関節のある器具を使用することで、狭い骨盤内でも高い自由度で操作が可能になる点です。また、手ブレ防止機能や精細な3Dハイビジョンカメラを活用することで、従来の腹腔鏡手術よりも精密な手術を行うことができます。これにより、泌尿生殖機能の温存に優れ、術後の排尿機能や性機能への影響を最小限に抑えることができるとされています。さらに、開腹手術への移行が少なく、術後の合併症リスクが低減することも大きな利点です。これらのメリットにより、患者さんは早期の社会復帰が期待できます。
道南地域でも直腸がんに対するロボット手術の導入が進み、現在3施設で実施されています。今後、さらなる普及により、多くの患者さんがより安全で負担の少ない治療を受けられることが期待されます。
(ハコラク 2025年4月号掲載)
略歴
平成7年、北海道大学医学部卒業後、函館赤十字病院、函館市医師会病院、旭川赤十字病院勤務を経て、平成14年、北海道大学大学院博士課程修了。札幌清田病院、北海道大学病院、函館赤十字病院勤務の後、平成30年から国立病院機構函館病院(現・函館医療センター)に勤務。日本外科学会外科専門医。日本消化器外科学会消化器外科専門医。日本消化器病学会消化器病専門医。



