がんゲノム医療って?
「がんゲノム医療」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?最近はテレビや新聞でも取り上げられる機会が増えていると思います。ヒトの体は全部で37兆個とも言われる細胞で構成されています。驚くべき事にその細胞の一つひとつに約2万個の遺伝子情報がそれらを構成するDNAが折り畳まれる形で収められています。ゲノムは遺伝情報の全体を表す言葉です。がんは、細胞の中にある遺伝子に傷がつき、正常状態を保てなくなった細胞が異常増殖することで発症します。遺伝子の異常には加齢やタバコ、紫外線、化学物質などの環境要因が関与します。抗がん剤治療が必要となるがんは、これまでは肺がん・乳がん・胃がん・大腸がん・肝臓がんなど臓器別に治療を行ってきましたが、近年がんの遺伝子異常の解明と、その原因遺伝子を治療標的とした分子標的治療薬の開発が進みました。
がんゲノム医療は、患者一人ひとりのがんに関わる遺伝子異常に基づく薬物療法を提供する治療です。この医療を提供するためのがん遺伝子パネル検査は、2019年6月に保険適用となり、25年5月までに全国で10万人超が検査を受けています。現時点では主な検査対象者は、固形がんで標準的な化学療法治療が存在しないか、治療終了見込みの患者さんですが、25年6月からは血液腫瘍にも検査が拡大されました。数百個以上のがんの遺伝子情報が1回の検査で得られますが、検査結果が出るまでには6週間程度を要します。これまでの報告では検査を受けた方の中で、検査により提示された治療薬を投与された方は1割以下にとどまっています。治療が提供できる場合も、その治療が道外施設で行っている治験や臨床試験であることもあります。少ない頻度ですが、血縁者間でがんになりやすい体質を持っている遺伝性腫瘍が疑われる場合もあります。詳しい情報は、国立がん研究センター・がんゲノム情報管理センター(C-CAT)が提供する「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」のサイトをご覧になってみてください。
略歴
昭和63年、函館中部高校卒。平成7年、北海道大学医学部卒業後、函館中央病院、釧路労災病院、国立がんセンター研究所などで勤務。平成14年に国立がんセンター研究所中央病院分子腫瘍学部リサーチレジデント修了、平成15年に北海道大学大学院医学研究科博士課程修了。平成17年より市立函館病院で勤務。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。
(ハコラク 2025年11月号掲載)



