代謝機能障害関連脂肪肝疾患MASLDとは
肝臓に過剰な脂肪が蓄積する病態である、非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD)は、最近よく取り上げられ、患者さんも増加していることから、ご存じの方も多いと思います。単に肝臓に脂肪が蓄積する病態から、炎症や肝臓の損傷を引き起こす病態(NASH)へと進展することがあり、注意深く経過を追う必要があります。最近、この病態NAFLDがMASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)へと改められ、単に体内の脂肪量が増えるだけでなく、肝臓の健康に深刻な影響を及ぼし、肝炎、肝細胞の損傷、慢性的な病変へと進行する恐れのあることが注目されています。
MASLDは肥満、2型糖尿病、高血圧などの代謝疾患と強く関連しており、不健康な食生活、運動不足、遺伝的要因などによって引き起こされることが多く、広範な健康問題の指標とも言えます。自覚症状は、病態の初期にはほとんどなく、肝炎の悪化、肝硬変への進展によって倦怠感、易疲労感、腹部の不快感や痛み、黄疸などを認めることがあります。血液検査では、肝機能検査(AST、ALT、γ‐GTP)、糖尿病の指標であるHbA1c、中性脂肪(TG)などが病態を反映し、画像診断では、超音波検査が手軽で、日常診療でよく行われますし、腹部CT検査、MRI検査も診断に有用です。最近はフィブロスキャンによる検査で、肝臓の硬さを診断することもでき、肝硬変への進行を早期に把握することも可能です。
昨年の日本肝臓病学会で「奈良宣言」が採択されました。これは、肝疾患の早期発見、早期治療のきっかけとして、血液検査のALT値30以上を目安に、ほかの重篤な肝疾患の可能性も含め、精査することが望ましいというものでした。つまり、ALT値30以上では何らかの肝細胞の障害が生じているということです。
2型糖尿病、高脂血症の患者さんはもちろんのこと、健康診断などでALT値30以上を認めた際には、MASLDの可能性を含め、積極的に医療機関で精査されることをお勧めします。
(ハコラク 2024年12月号掲載)
略歴
昭和56年、札幌医科大学卒業。札幌医科大学附属病院第一内科、札幌慈啓会病院、函館五稜郭病院消化器内科、医療法人社団官尾医院勤務を経て、平成17年、平田博巳内科クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。平成3年、第4回日本内科学会奨励賞受賞。