切らずに治すがん放射線治療
日本では放射線治療の利用率は先進国中で最下位です。その背景として、被爆国として放射線への恐怖心があることや、患者さんはもちろん医療関係者ですら放射線治療の正しい知識を持ち合わせている方は少数です。 つまり、すばらしい治療でも、知らないもの(得体の知れない治療)は避けられがちです。「切らずに治す放射線治療」で多くの方が恩恵を受けられるよう、知識の普及に努めることも私の使命です。
放射線治療に適するがんとしては、放射線感受性が高いがん(悪性リンパ腫、白血病、子宮、皮膚)、手術により機能・形態損失が重大ながん(脳神経、咽喉頭、口腔、肺、食道、乳、前立腺、膀胱)、症状を緩和できるがん(転移性脳腫瘍、転移性骨腫瘍、リンパ節転移)など。一方で放射線治療には適さないがんとしては、手術が標準治療であるがん(胃・小腸・大腸などの消化管、腎臓・尿管などの尿路)、放射線感受性が低いがん(悪性黒色腫、甲状腺、骨や筋肉の肉腫)があります。
手術や化学療法と比較して、「放射線治療は患者さんに優しい」とされる多くのメリットがあります。早期がんの多くは放射線治療でも手術と同等の治療成績が得られ、手術不能な進行がんでも治癒の可能性が期待できます。切除しないため、重要な機能や形態の損失がありません。抗がん剤のような全身への強い副作用はなく、局所のわずかな反応だけで済むため、高齢者や体力の弱い患者さんでも大丈夫です。手術や化学療法に比べて医療費も安く、副作用が少ないため、通院で仕事を続けながら治療できます。がんの浸潤や転移による苦痛症状を緩和する治療も手軽に可能です。
コンピュータの進歩とともに、放射線治療も現在では完全コンピュー夕制御で行われます。それに伴い極めて正確にがん病巣のみに放射線を集中し、周囲の正常組織を傷つけない照射技術である「定位放射線照射」や「強度変調放射線治療」でピンポイントに身体的負担なく治療可能となっております。
(ハコラク 2024年11月号掲載)
略歴
平成6年、旭川医科大学医学部卒業後、北海道大学医学部附属病院、旭川厚生病院、帯広厚生病院などに勤務、テキサス大学MDアンダーソンキャンサーセンターへの留学を経て、平成15年に市立函館病院放射線科に着任し、平成20年に放射線治療科長に就任。日本医学放射線学会放射線治療専門医。医学博士。