函館で半世紀ぶりに酒蔵が誕生
地酒造りを通じて地方創生を目指す
伝統手法で醸す飽きのこない一杯
2021年11月、函館市内で54年ぶりとなる酒蔵「五稜乃蔵」が旧亀尾小中学校跡地に完成した。上川管内上川町にある「上川大雪酒造」が道内に構える3つ目の酒蔵として製造を担い、同酒造の親会社と函館高専同窓生の企業家らが出資した新会社「函館五稜乃蔵」が販売などを担当。同校生が醸造学などの研究を行うラボとしての役割も持つ。総杜氏を務めるのは上川大雪酒造副社長で同校の客員教授でもある川端慎治さんで、同校との共同研究も手掛けている。使用する酒造好適米は亀尾町農家をメインに、道内契約農家が生産する「彗星」「吟風」「きたしずく」の3種類。醸す酒の個性に合わせて精米歩合を調整し、味わいを左右する仕込み水には、松倉川水系の超軟水を使用する。仕込みは1工程ずつ丁寧に人の手を掛け、伝統的な手法で小さめのタンクで小量ずつ。12月に初仕込み、翌年1月に初しぼりを迎え産声を上げた新銘柄「五稜」は、するすると喉を通る軽やかな飲み口で、鼻に抜ける香りはやわらか。早くも全国の辛党たちから注目を集めている。
地元酒蔵設立の悲願 関係者の熱意で実現
醸造を手掛ける「上川大雪酒造」は、休止していた三重県の酒造会社を移転して、2016年に設立した北海道では戦後初となる新しい醸造所。地域に親しまれる酒をコンセプトに、その土地の水と米を原材料の主軸に据える。町の特産物の旨味を引き立てることにもこだわった一杯はどこか郷愁を誘い、飲食店はもちろん一般家庭にも人気が高く、コロナ禍でも影響を受けず売り上げは堅調。小さな蔵として地域に密着し、酒造りを通した地域活性化にも取り組んでいる。一方、函館では地酒造りを目指して函館高専が菜の花由来の酵母を開発。函館市などの主導で本州の酒造会社に醸造を依頼し、地酒の商品化を成し遂げた実績を持つ。地元での酒蔵設立の熱意は高まるものの、問題は山積みで壁は高く、同窓生の企業家らが組織する「函館高専地域連携協力会」とともに産学連携を通じて道を模索。「上川大雪酒造」設立の手法に活路を見出し、2019年、函館市と函館高専が「上川大雪酒造」を訪問した。協議を重ね、方向性が一致したことで函館市の過疎地活性化事業も兼ね、道南でも注目の酒米の生産地・亀尾町に酒蔵誘致が実現した。
〝飲まさる酒〟を目標に丁寧な仕事を積み重ねる
稼働からわずか数カ月「五稜」は、札幌国税局の「新酒鑑評会」で金賞、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催する日本酒コンクール「令和3酒造年度全国新酒鑑評会」でも入賞するなど順調な滑り出しを見せ、一躍注目株へと成長を遂げた。味が変わらないうちに飲み切りやすい四合瓶(720㎖)で販売しており、函館、北斗市内の計7カ所の酒販店、函館空港売店で購入できる。今年4月にオープンした酒蔵併設の直売ショップでは、限定商品の生酒のほか、酒名の刻印が入ったグラスや平杯なども販売。また、酒米づくり体験を通じて「五稜」を知ってもらい、酒蔵を基軸に地域のにぎわいを創出しようと「函館市亀尾ふれあいの里」とも連携した地酒造りプロジェクトを始動した。川端さんは小規模で手造りだからこその利点を生かした人材育成にも力を入れ、ノウハウを伝授しながら従業員と活発に意見交換。「函館の地酒といえば五稜と市民が誇れるような、また函館に行けば五稜が飲めると観光客にも思ってもらえる存在にしたい」と話し、派手さは無くとも〝普通においしくて、ついつい飲んでしまう酒〟造りを妥協せず続けていく。
五稜乃蔵
函館市亀尾町28‐1
直売所☎0138‐84‐5177
10:00~15:00
月曜定休
P有り
キャッシュレス決済利用可
https://hakodate-goryo.co.jp
ハコラク2022年8月号掲載