地元で愛されるご当地菓子を函館に足を運ぶきっかけに
地域の暮らしに寄り添い和洋菓子店として発展
「和洋菓子はこだて柳屋本店」は、万代町で76年続く老舗。初代・若杉春定さんが「函太郎せんべい」を販売し「柳屋」の屋号で立ち上げた個人商店を前身に、1949年「有限会社若杉商店」として法人化。戦後間もない万代ふ頭の近辺は、北洋漁業の漁師らの需要に応えるようにさまざまな商店でにぎわい、同社も多くの職人を抱える和洋菓子店「はこだて柳屋」へと発展。創業者の孫で、札幌市の大手流通菓子問屋で経験を積んだ若杉充宏さんが、2005年に3代目社長に就任すると、地元スーパーを中心にピーク時で12カ所にテナント出店。現在も本店のほか10店が営業し、市民の暮らしに身近な菓子店としてその味を広めてきた。本店に並ぶ菓子は、大福もち、どら焼き、上生菓子などの定番から季節菓子まで100種類以上。累計1000万個以上を売り上げ、人気キャラクターともコラボするパイまんじゅう「ロマネスク函館」や、道南産の希少なサツマイモ「紅あずま」を使い函館空港と共同開発した「函館いも羊羹」とロングセラーも多数。創業から守る保存料を使わない菓子作りや選べる楽しさの提案、包装などの細やかな対応で、地域店ならではの付加価値を発信している。
職人技が詰まった食べておいしい工芸菓子
1997年に発売した「いかようかん」は、和菓子職人が2日掛かりで作る工芸菓子。本店改築の際、工事期間中の仮店舗に彩りを添えようと熟練の和菓子職人が大きなイカを模した菓子を作って展示。これを目にした来店客から購入したいとの要望を受け、急遽商品化を進め、リアルな見た目とおいしさの両立を追及した「いかようかん」として販売にこぎつけた。白あんベースのあめ色のようかんで成形するイカの姿は、耳、胴、顔のパーツを一つずつ組み立て、中にほろ苦い香りがアクセントのコーヒーあんとモチモチ食感の求肥を包んだ三層構造。輪切りにすると甘み、香り、食感がバランスよく味わえ、イカ一杯分のボリュームも飽きずに楽しめるよう仕上げている。イカ墨で黒目を入れた練り切りの目玉、ケーキ作りにも使われる絞り器で熱々のようかんを絞る10本の手足と吸盤、寒天を塗って表現する生イカのような照りと、全てが職人の手作り。1日に販売できるのは50本までだが、断面がイカ飯のようとも、コーヒーあんがイカゴロのようとも言われ、インパクトと話題性のある函館らしい菓子として贈答用を中心に人気を集めてきた。パッケージに〝生採れたて一パイ入〟〝けっして刺身にしないで下さい〟というユニークな文言をあしらい、開封時に函館山の夜景とイカが飛び出すギミックを考えた若杉社長は、「手間が掛かってあまり利益はないが、これのおかげで店名を覚えてもらえたり、店に足を運んでくれる方もいる。どこでもお菓子が買える時代だからこそ、独自の工夫で商品価値を高めていかなければいけない」と語る。地域に愛され、道外の人が函館に来たくなる…。そんな〝真のご当地菓子〟を目指している。
株式会社 はこだて柳屋
函館市万代町3‐13
☎0138‐42‐0989
8:30~20:00
無休
P有り
キャッシュレス決済利用可
ハコラク2025年4月号掲載