自治体や地域と連携を深め “地ビール”の役割を果たす
大沼の豊かな自然が育む天然水で仕込む地ビール
地下から湧き出る横津岳系の天然アルカリイオン水を使い仕込む地ビールを醸造・販売する「ブロイハウス大沼」。創業のきっかけは、初代・鈴木清士社長が七飯町大沼をボーリング調査したところ、偶然地下から水が吹き出したこと。水質調査の結果、国内の湧き水としては珍しいアルカリ性の良質な水と評価され、1992年にミネラルウォーターを製造販売する会社を設立。94年の酒税法一部改正を契機に、全国各地でクラフトビール醸造所が次々と誕生し「地ビール」として盛り上がりを見せ始めた頃に、七飯町からその天然アルカリイオン水を使ったビール醸造の打診を受け、97年に別会社として飲食店を併設した醸造所を開業した。初めて仕込んだのは後味すっきりでクラフトビール初心者も飲みやすい「ケルシュ」、カラメル麦芽を使用したドライでホップの苦みがある「アルト」の2種類。現在はアルコール度数が高めでフルーティーな香りの「インディア・ペールエール」、麦芽の香ばしさがコーヒーを思わせ、泡まで楽しめる「スタウト」を加えたエール4種類を瓶と缶入りで揃える。98年に「アルト」が「全国地ビールコンテストジャパンカップ アルト部門」で銅賞を受賞したのを皮切りに、さまざまなビアコンテストで好成績を収めるなど品質は折り紙付き。ブームが落ち着いた後も丁寧な仕事を積み重ねて確固たる人気を築き、道南の土産店やコンビニ・スーパーでも購入でき、飲食店でも気軽に味わえる、クオリティーの高い地ビールとして、広く愛されている。
変わらない味を届けながら新事業にも挑戦
20年近く醸造責任者を務めてきた蜂矢寛専務は「アルカリイオン水はビール作りには少し難しい性質がある。水自体に手を加えず、麦芽や酵母、ホップなどの配合調整で納得の味に仕上げていくのが職人としての技術の見せどころ」と話す。昨年の秋からは小辻勇輝さんが醸造責任者として作業に従事。天然水を仕込み水に麦汁を造り、香りと苦みを引き出すホップ投入、冷却、酵母発酵の工程を経て、1週間から10日ほど低温熟成する。作業工程はシンプルだが、自然環境に合わせての細やかな調整も必要となり、配合の見極めが大切になるという。今後は蜂矢専務が手掛けた北斗市産ネギのエールビールが、2021年ビアコンテストで銀賞を受賞したことを武器に「ビールを通じ道南特産品の魅力を発信できれば」と言い、各自治体と連携したビール作りに注力。函館市内での直営レストラン出店に向け、醸造タンクの増設も検討している。また、これまでと同様に麦芽カスを町内の養豚農家へ飼料として無償提供するなど環境への配慮も欠かさず継続。「コロナ禍で仕事に余裕ができ、改めて地ビールの役割を考える時間が持てた。これからも地域と協力しながら唯一無二の味を変わらず届けていきたい」と、先を見つめて仕事に挑んでいる。
株式会社 ブロイハウス大沼
七飯町大沼町208
☎0138‐67‐1611
※直売所・飲食店は年度内休業
ハコラク2024年7月号掲載