1942(昭和17)年に吉田製菓として創業した当初は、手焼きせんべいを製造、販売していました。その後、吉田食品は、和菓子、洋菓子、パンなど幅広く展開していきます。2015年には函館市西桔梗町に工場を新設、翌年には工場に隣接する形で直営店「和創菓ひとひら」をオープン。ガラス張りの厨房を設置した店舗では、職人の作業を間近で見ることができ、出来立てのお菓子を提供しています。
現在、代表を務めるのは3代目の吉田貴之さん。函館市出身で、大学卒業後に東京の和菓子メーカー2軒で修行を積んだ後、家業である吉田食品に入社します。「東京で学んできた技術を函館でも生かしたい」と意気込みますが、会社内は変化を望まず「今まで通りで良い」という雰囲気だったといいます。
このままでは傾いていた業績を立て直すことはできないと感じた吉田さん。一から職場環境やすべてのお菓子の見直しを進めました。また、和菓子技術では最高峰と呼ばれる、製菓材料を用いて四季や花鳥風月を表現する工芸菓子を学び始め、全国菓子博覧会に展示、そして北海道の和菓子職人で初めて選・和菓子職に認定されるなど、着々と和菓子職人としての箔(はく)を付け、行動で会社の進むべき道を示していきます。
従来の「大きい・甘い・安い」という吉田食品のイメージから脱却すべくオープンさせた「和創菓ひとひら」。餡子は、豆の選定からこだわり自家製あんをすることにより、それぞれのお菓子に合うように作っています。今では吉田さんの確かな技術が全国に広まり、関東から修行のために人が来るなど、会社内はより良いものを作りたいという雰囲気に変わったといいます。
ものづくりの意識改革は店舗づくりにも表れています。店舗には吉田さんが手がけた工芸菓子が飾られ、四季に合わせたお菓子を販売し、モチーフとなった花を庭に植えるなど、味覚はもちろん、五感でも楽しめる工夫が張り巡らされています。
工芸菓子は見た人を驚かせ、楽しませる。店舗づくりも同じように、来店した人を驚かせ、楽しませる。和菓子を一つのエンターテインメントとして捉えた職人は、私たちにここでしか味わうことのできない時間を届けてくれるでしょう。
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道南でつくられるこだわりの食品を集めた通販サイト「道南地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)