創業100年の伝統の味で、日本茶の文化を伝えていく
函館から全道へとくきほうじ茶を広める
〝お茶のなかにし〟として親しまれている「中西翠香園茶舗」は、1922年創業の日本茶専門店。茶の産地として長い歴史を持つ三重県で生まれ育った初代・中西政一さんが、北海道に日本茶の文化を広めようと函館に移住したのが始まり。当初は若松町31番地付近に店を構え、27年に現在地に移転。以来、親子3代に渡り暖簾を引き継いできた。店頭には、創業者ゆかりの三重県産をはじめ、静岡県、京都府、鹿児島県など、全国有数の産地から、その時々で厳選して仕入れる煎茶やかぶせ茶、玉露を15種類ほど用意。中でも1番人気のほうじ茶は、創業時から続く伝統の製法で、3種類の伊勢茶をブレンドして自家焙煎する自慢の逸品だ。「自家焙煎くき特上焙じ茶」などの、原料は本州で主流とされる茶の葉の部分は使わず、3煎、4煎と湯を差しても味がしっかり感じられる茎に特化して焙煎。道内で先駆けて大型の炭火焙煎機を導入し製造を始めたことから、北海道に〝くきほうじ茶〟を根付かせたパイオニアと言われ、現在も36年もののガス式直火焙煎機が、香ばしい匂いを漂わせている。
地元農家とコラボし受け継ぐ製法で新たな味も
味と香りを生かすよう茶葉をブレンドする合組から焙煎まで、自ら手掛ける3代目の中西政基店主は、父である先代の文一さんの仕事を見て学び、製法や知識を身に着けた。茶葉の色や香り、煙の変化を見極めながら焙煎するほうじ茶は、天候や湿度の影響を受けやすく、常に同じ味に仕上げるには、試行錯誤の末に培った経験と勘が頼りという。「壁にぶつかって初めて分かることは多いので、失敗を失敗とは思わない。興味が湧いたらすぐ行動し、自分でやってみないと気が済まない」と、ブレンド茶や健康茶の開発にも長年取り組み、2014年には、「どうなん地域WAKU2協議会」(現・きたのめぐみ舎)から道南の農作物の魅力を伝える商品開発の依頼を受け、地元農家の素材とコラボしたほうじ茶シリーズを発売。森町政田農園の黒千石大豆、七飯町ついき農園の有機玄米や福田農園の王様しいたけなど、組み合わせる素材ごとに、茶葉の配合や焙煎度を細やかに調整し、生産者が丹精込めて作る作物と伝統のほうじ茶、双方が引き立つ新たな味わいを生み出している。
真摯に上質な味を築き次世代にも茶のおいしさを
今年4月、40年前の味を再現した「玄米入りほうじ茶」をリバイバル発売し、並、上、特上と合わせ定番が4種類となったほうじ茶は、鮮度の良い状態で販売するため、1週間から10日ごとに焙煎。焙じた茶葉を手作業でかき混ぜ、隅々まで煙と熱を抜く工程は、茶本来の香りを生かす上で欠かせず、茶箱で4~5日寝かせることで、さらに濃厚で深い香りに熟成されるという。「ひと手間掛けて初めて出せる味がある。お茶を淹れる習慣がない若い人にも、本当のおいしさを知るきっかけを作りたい」と、コラボほうじ茶シリーズは、茶葉や素材の配合比率が崩れないよう手間暇かけて分包するティーバッグで製造し、装着したまま手軽に水出し茶が飲めるペットボトル用の茶こしや色とりどりのかわいらしい茶筒などの茶道具も販売。「お茶を淹れるひと時は心を和ませ、会話も弾ませてくれる。湯温や抽出時間、茶葉の量でも味が変わり、自分好みの味を探すと発見や楽しさがあるので、急須でお茶を淹れる文化を取り戻したい」と、昔ながらの素朴な味を守りながら、日本茶の魅力を伝えている。
中西翠香園茶舗
函館市若松町7‐19
☎0138‐22‐3717
9:00~18:00
日曜定休
P有り(2台)
キャッシュレス決済利用可
https://www.suikouenchaho.com
ハコラク2022年7月号掲載