漁業と加工 双方を担う網元が、地元の水産資源を新たに見出す
道内大謀網漁業の発祥地で網元自ら海産物を加工
海中に仕掛けた網で回遊する魚を漁獲する大型定置網漁法が、道内で初めて行われた函館市南茅部地区。臼尻漁港近くに本社を構える「久二野村水産」は、この地に代々地縁を持つ野村家4代目当主・野村孝次さんが1950年に水産加工業を創業し、同家5代目・昭夫さんが大謀網を構えて以降、網元として年間を通してさまざまな魚を水揚げする。漁期以外も漁師やその家族が安定して働けるよう、自社で水揚げした海産物の加工にもいち早く取り組み、〝6次産業〟の概念が普及していなかった1990年代に、〝網元浜造り〟として商品開発を本格化させた。定置網で取った真イカを特製ダレに漬け込み、イクラのしょう油漬けと合わせた「網元秘造り」は、2000年度の全国推奨観光土産品審査会で、食品部門の最高賞に当たる農林水産大臣賞を受賞。さらに数の子入りの松前漬け「ひろめ舟祭り」や2017年に発売した寒海性の海藻・ダルスの佃煮「縄文のり」など、穫れたての前浜の幸と長年培った加工技術から生まれるオリジナル商品の数々は、道内はもとより、全国規模の品評会でも高く評価されている。
未利用海藻・ダルスに着目 養殖の厄介者を町の資源に
「縄文のり」の原料であるダルスは、北欧を中心に海外では古くから食用されている紅藻類の海藻。コンブの養殖が盛んな南茅部地区では、養殖ロープにダルスが繁茂しその存在は知られていたが、日本では産業利用が進まず収穫対象にならないことから、未利用海藻として処分されてきた。しかし、低カロリーで食物繊維が多く、ヨウ素、鉄、カリウム、ビタミンなどの栄養素が豊富に含まれるダルスは、近年〝スーパーフード〟として注目され、2014年頃から北海道大学や道立工業技術センター、南茅部漁協と連携し、地域の新たな水産資源にしようと商品開発に着手。コンブやワカメとはひと味違う濃厚な磯の香りとシャキシャキとした食感が楽しめるダルスの塩漬け「海のパセリ」を発売後、さらにダルスが食べやすくなるよう試行錯誤の末、甘じょっぱい佃煮にした「縄文のり」を開発。近郊に、世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産を有する〝縄文の里〟にちなみ名づけられた一品は、2019年度の全国推奨観光土産品審査会全国商工会連合会会長賞を受賞した。
地域を支える特産品を育み水産事業を未来に継承する
漁港のそばにある工場では、海産物の鮮度を生かす加工にこだわり、水揚げされたばかりの赤紫色のダルスが運び込まれると、ほかの海藻が混ざらないよう丁寧に寄り分け、短い茹で時間で独特の風味を守っている。加熱により緑色になったダルスを、適度に食感が残るように小さく刻み、ほのかにショウガが香るしょう油ダレで煮込んだ「縄文のり」は、白ゴマを加えた簡易パッケージの「佃煮ダルス」としても販売。本社直売コーナーのほか、本通にある直営店でも取り扱う。「加工品の味付けは、漁師の奥さんや母さん方がスタッフと一緒に築いた味。みんなで作ったからこそ多くの賞をもらえる商品になった」と野村譲社長。近年の気候や水産資源の変化を受け、地域を支える新たな特産品を育てるべく、将来的なダルスの養殖化も視野に入れているという。「約180年の定置網漁の歴史があるこの土地で仕事をする以上、受け継いできた事業を絶やしてはならないと思っています。水産資源の使い方を考え漁業を守りたい」。地域とともに歩む網元として、持続可能な水産業の形を追い求めている。
久二野村水産株式会社
函館市臼尻町245
☎0138‐25‐3456
【本通直営店】 函館市本通2‐55‐24
☎0138‐55‐9532
8:00~17:00
木曜定休
P有り
https://www.hamazukuri.com
ハコラク2022年5月号掲載