20年に渡る研究成果の集大成が韃靼そばの魅力を伝える
注目を集めた健康食品を 専門家との共同研究で全国へ
1996年、そば処「ふでむら大中山店」として七飯町で創業し、2020年に現在の場所に移転リニューアルした「蕎麦と天ぷら千乃家」。筆村千恵子社長は、弟が五稜郭町で立ち上げたそば店を手伝ったのをきっかけにそば作りを始め、6年ほど経験を積んだ後に独立。当初は、自家製麺のごまそばをメインに営業していたが、2000年に韃靼そばの提供も始めると、当時の健康食品ブームが追い風となり一躍人気メニューとなった。持ち帰りを希望する人も多かったが、賞味期限が2日と短かかったため、北海道立工業技術センターや札幌の大学に在籍する農学博士・荒川義人教授に協力を仰ぎ、日持ちのする商品作りに注力。13年に開発した冷凍韃靼そばは、保存料を一切使わず6カ月の保存が実現し、全国への発送も可能となった。さらに昨年発売した冷凍韃靼そば「千乃韃靼」は、20年来続けてきた研究成果を結集し、創業から継ぎ足すかえしを使い磨き上げた自慢のつゆとセットで冷凍することで、店の味をそのままに届けている。
料理人としてまず味を追求し機能性の証明にも尽力
〝苦そば〟と呼ばれる韃靼そばには、ルチンという苦み成分が通常のそばの実の約100倍含まれ、加水によりポリフェノールの一種・ケルセチンに変化すると、血流改善や動脈硬化の予防など、さまざまな効果が期待できるとされる。この性質に着目した筆村社長が、2001年に専門家と共同開発した賞味期限5日の韃靼生そばは、北海道新技術・新商品開発奨励賞を受賞するなど、高く評価されたが、保存性を高めた分、味が落ちたため、料理人として根本的に製法を見直し。おいしさと保存性を両立させる冷凍製法にたどり着いた。店でも冷凍韃靼そばを提供するほど味に確信が持てるようになると、さらに食品としての機能性を追求。「千乃韃靼」では苦みが少ない北海道雄武町の「満天きらり」を採用することで従来品よりもそば粉を増量し、調査データから冷凍の最善のタイミングを割り出すことで、麺のケルセチン含有量を最大限まで引き上げることに成功した。2020年には、研究成果をまとめた論文が学会で受理され、目指している北海道食品機能性表示制度「ヘルシーDO」の認定へ大きく一歩前進した。
数値化できない職人技で人生を掛けたそばを届ける
製造工程には、韃靼そばの機能性を引き出す麺の熟成時間など、共同研究の成果により数値化できた部分もあるが、「そばは生き物」と語る筆村社長が最後に頼りするのは、長年培ってきた職人としての感覚。気温や湿度により日々変化するそば粉の状態を、手の平で感じ取りながら水回しを行い、冷凍しても打ちたてのようなコシとそば本来の味わいが再現されるよう、味に一切の妥協を許さない。「韃靼そばには不思議な魅力があり、人生を懸けて商品作りに取り組んできました。良薬は口に苦しと言いますが、いかにおいしく食べていただくかを考え続けてきたので、ぜひ日常の中に取り入れて欲しい。今後は店のアイドルタイムを使って、韃靼そば専門店として営業したり、韃靼スイーツの提供も計画していて、少しでも多くの方にこのそばの魅力を伝えられたらと思っています。いつか北海道の恵みを使った函館土産として発信できたら」と筆村社長はほほ笑む。20年越しの集大成として築き上げた「千乃韃靼」には、そば職人として歩んできた筆村社長の熱い思いがぎっしりと詰まっている。
蕎麦と天ぷら 千乃家
函館市桔梗4‐3‐16
☎0138‐85‐6934
11:00~14:30
※土・日曜は11:00~17:30
(各30分前L.O)
不定休(毎月1回いずれかの水曜日)
禁煙 P有り
キャッシュレス決済利用可
ハコラク2021年7月号掲載