自然のままの味わいを極め、ほかとは一線を画す逸品に
豆問屋に始まり70年 函館の甘納豆文化を受け継ぐ
甘納豆を作り続けて32年。「石黒商店」のショーケースには、多彩な豆から生み出された色とりどりの商品がずらりと並ぶ。1951年、豆類の雑穀問屋として石黒権一郎さんが創業し、69年から製あん業を始めるなど事業を拡大。時代と共に豆の卸し先だった甘納豆店の閉業が相次ぎ、当時函館市内で最後の一軒となっていた「八千代製菓」の後継者が不在になると、89年に事業を引き継ぎ、甘納豆の製造を開始した。その後、独自に味を磨き上げてきた2代目・石黒孝一社長は、甘納豆専門店として店頭での小売販売に切り替え、品質管理を徹底。保存料や着色料を一切使わず、それぞれの豆の特徴を際立たせた甘納豆は、素材の上品な甘味が感じられる「白花豆」や大ぶりなソラマメの薄皮までやわらかな「お多福」、小さな粒の中から青々とした香りが広がる「青えんどう」など、10種類を展開。店内では100g単位の個包装や量り売りで販売し、自然の作物をそのまま生かしたやさしい味わいのスイーツとして、妊娠中の女性や健康志向の高い若い世代からも支持を集めている。
日持ちよりも味を追求し独自の製法を確立
水でうるかした乾燥豆を、煮崩れしないようじっくりと炊き上げ、蜜に漬け込みさらに寝かせて、余分な皮を取り除き見栄えを整える…。豆の種類によっては完成まで10日もの手間暇が掛かる「はこだて甘納豆」の製造を、全て一人で手掛ける石黒社長。当初引き継いだ5種類の甘納豆の製法は、日持ちさせるために砂糖を大量に使用し、保存料も必要としていたが、豆を炊いた後に残る添加物の臭いに気が付き、試行錯誤の末、無添加・無着色の製法を確立。新商品の開発にも取り組み、甘味が浸透しにくい黒豆や黒千石など大豆系の豆が、数日かけて段階的に蜜の糖度を高めることで、おいしく仕上がることを発見すると、甘納豆のラインアップを拡大。独自に築いた技術により、商品化が困難とされていた函館生まれの超大粒大豆「たまふくら」も、「たま福来甘納豆」として完成させ、2013年には北のハイグレード食品に認定された。豆本来の味を守る製法と引き換えに、賞味期限は2週間と短くなったが、「甘納豆は甘過ぎてどれも同じというイメージを変えたい」と、こだわりを貫いている。
豆の魅力をとことん伝えこれまでのイメージを覆す
ボイラー釜でじっくりと炊く豆はホクホクとやわらかに仕上がり、たっぷりと含む水分が砂糖の甘味をやわらげ、より素材の味を引き立てる。「豆は生き物。煮込むほどに甘味は出るが、どこで止めるかがプロの技」と、日々気温や湿度に合わせて炊き方や蜜の糖度を変えるため、製造レシピは一切設けず、新物の時期には納得のいく仕上がりになるまで作り直すこともしばしばだという。甘納豆のほかにも、皮むき青エンドウを塩と砂糖だけで味付けた生菓子「いちの豆」や、青エンドウのこしあんで作る「ゆきうさぎモナカ」といった和菓子も手掛け、甘納豆と組み合わせた箱詰め商品が贈答用に人気を集めるなど、常に豆の魅力を伝えようと一心に取り組んできた。「北海道は豆生産のメッカですが、灯台下暗しで地元ではあまり知られていません。どうしたらそれぞれの豆のおいしさを感じてもらえるかを考え、本当に良いと思えるものだけを作っているので、これまでの甘納豆のイメージをちょっと忘れて、一度味わってみて欲しい」と、一粒一粒に職人の魂を込め、唯一無二の味を作っている。
株式会社石黒商店
函館市昭和2‐11‐2
☎0138‐41‐0839
9:30~17:00
水・第3火曜定休
P有り
https://hakodate-amanatto.jp/