ウイスキーを使う燻製チーズを
全国で愛される函館の味に
趣味で始めた燻製作りがふるさと納税の返礼品に
「花まる工房」は、学生向けの下宿やウィークリーマンションを運営する「下宿花まる」と「全日本空手道剛心会道場」が建つ敷地の一角で、スモークチーズを製造する小さな燻製工房。代表の山本哲平さんは、千葉県で12年間空手修行に励み、2013年に実家のある函館に戻ると、空手の源流とされる沖縄空手を一から学び直して道場を設立した。長年武道一筋に歩んできたが、5年ほど前、偶然目にしたテレビのアウトドア番組で、チーズをスモークする様子に食指を動かされ、見よう見まねで段ボールを使った手作りの箱で燻製チーズ作りに挑戦。趣味として作るたびに知人に配ったり、道場で教え子らに振る舞うと想像以上に喜ばれ、次第に購入希望者が現れたことから、21年、物置を改造して電気や水道設備を整えた〝燻製基地〟を構えて商品化した。空手道場の顧問で、当時函館市長だった工藤寿樹さんに燻製チーズを食べてもらうと、「おいしいから返礼品にしては?」との提案があり、22年から「琥珀の風」と名付け、函館市のふるさと納税返礼品としても製造。現在は、スモークの香りがクセになる「プレーン」、ホールスパイスを細かく砕いてまぶす「ブラックペッパー」、プレーンをさらに燻したオーダー限定の「特濃」の3種類のチーズと、「スモークたくあん」を製造し、工房での予約販売や通信販売を行うほか、土産物店での販売も予定している。
武道の教えに支えられ独自の燻煙方法を確立
原料となるチーズは、スモークに合う風味や舌触り、食べやすい味のものを吟味した国産プロセスチーズを使用。そのまま熱すると溶け出してしまうため、スモークウッドを使って3~4時間低温で冷燻し表面に燻製の膜を作ってから、チップで5~6時間高温で燻す。ナラやサクラなど5種類をブレンドし、ウイスキーをなじませた独自のチップで、香り高く照りのある色合いに仕上げるのがこだわり。琥珀色のウイスキーに由来する煙で燻すことから「琥珀の風」という商品名になった。山本さんは元来武道家。当初スモークチーズ作りは失敗の連続で、チーズを台無しにする苦い経験も一度や二度ではなかったが、その中で偶然発見できた製法も多かったという。「武道の師から、〝何度も失敗して無駄なことをたくさんしなさい。いつかそれが無駄ではなくなるから〟と教わってきた。それはチーズ作りにも通じている」と語り、以前北斗市にあるスモークハムの手作り工房で、武道家としての体力を見込まれて仕込み作業を手伝ったときの経験も、スモークウッドやチップ作りのヒントになったという。「〝燻しの匠〟としてどうしたらもっとおいしくできるかいろいろと試していきたい。チーズが苦手でもスモークすると食べられる人がいたので、この商品をきっかけにチーズを好きになってもらえたら」。日本全国で愛されるチーズに育てられるよう、新たな道を切り開いている。
花まる工房
函館市柏木町4‐15
☎0138‐56‐0011
問い合わせ/9:00~21:00
ハコラク2024年4月号掲載