人と人をつなげて旋風を巻き起こす 函館の新しい名物に
〝厄介者〟のマイワシ 価値を高める商品登場
函館市産マイワシを原料にした発酵調味料「ハコダテアンチョビ」の常設販売が昨年11月にスタートした。商品の監修・販売を手掛ける任意団体「ローカルレボリューション」の岡本啓吾代表は、「カタクチイワシではなく、脂乗りが良いマイワシを原材料に使ったアンチョビは世界的にも類を見ないと思う。オリーブオイルではなくコメ油を使用している点で、和食にも利用しやすいと料理人からの評価も上々」と手応えを感じている。近年、渡島管内のマイワシの漁獲量は、年によって増減はあるもののほぼ右肩上がりで推移。だが、道内の一般家庭では食卓に上がることは少なく、その多くは飼料用か魚油向けとして活用されており、市場での取引は安価。また、定置網に掛かり本来の漁の妨げになることもあり、〝厄介者〟として扱う漁師も多いのが現状だ。その状況を打破し、ブリと並んで函館を盛り上げる新たな水産資源を作ろうと、市内の漁師、商業施設関係者、料理人がタッグを組み、開発された「ハコダテアンチョビ」は、大量水揚げされた場合のフードロス削減の観点からも、注目を集めつつある。
1通の匿名投書が大きな流れを呼び寄せる
「ハコダテアンチョビ」誕生のきっかけは、2020年9月、函館コミニティプラザ(シエスタハコダテ内Gスクエア)の意見箱に投函された匿名投書。漁師の現状を憂い、今後の展望が書かれた内容に触発された、シエスタハコダテの統括責任者でもある岡本さんは、差出人だった市内の漁師・熊木祥哲さんを探し出し意見を交換。熊木さんを水産業活性化プロジェクト「ハコダテフィッシャーマンズ」の発起人として、漁師直販イベント開催に向け動き出した。活動に賛同した海産物卸問屋「福田海産」の福田久美子社長の協力も得て翌年開催したイベントは大成功。その活動の中でマイワシのフードロス問題にも着目。消費拡大を図り、商品開発や販売イベントなど試行錯誤を繰り返す中、マイワシの活用を考えていた北斗市のレストラン「ポッケディッシュ」の齊藤亘胤オーナーシェフと手を結び、アンチョビの製造へと大きく舵を切った。製造レシピは齊藤さんが考案。先行販売で高評価を受け、常設販売へと弾みをつけた。現在は「無印良品シエスタハコダテ」「福田海産」「ポッケディッシュ」の3店舗で購入できる。
道南の郷土料理誕生 新産業の構築にも期待
「ハコダテアンチョビ」製造は全て手作業。「マイワシのアンチョビを作るのは、実は難しくありません」と岡本さんが話す通り、製造方法はいたってシンプル。室温25℃ほどの環境の中、マイワシを3カ月ほど塩漬け発酵させるのが基本。温度管理ができる場所さえあれば、設備投資もさほど掛からず事業転換もしやすいため、イカの不漁で低迷する函館全体の水産加工を盛り上げ、雇用創出の起爆剤にもなればと期待を寄せる。また、「アンチョビを新しい郷土料理にできるよう、人と人とのつながりを広げ、事業に関わる人を増やしていきたい」と言い、地域協働・共生を実践する。現在「福田海産」と「ポッケディッシュ」が塩漬け発酵を、就労継続支援B型事業所「ジョブハウス勇気」が内臓・頭・骨の除去、瓶詰めなどを担当するなど、製造作業を分担。同事業所の就労課長の中塚里美さんは、「地域社会に貢献している実感から、利用者さんが自分たちの仕事により自信を持てるようになった」と喜ぶ。今後は三次加工商品の開発も視野に入れ、たくさんの人と手を取り合い明るい未来へつなぐ活動に挑んでいく。
Local Revolution
函館市本町24‐1 シエスタハコダテ内
☎なし
インスタグラム「hakodateanchovy」
ハコラク2023年5月号掲載