生産者の顔が見える原材料で焼酎醸造
地域と歩みともに成長を
道産の原料にこだわった老舗酒造メーカー
北海道を代表する酒造メーカー「札幌酒精工業株式会社」は、1933年に札幌市で創業した焼酎メーカー「札幌焼酎株式会社」が前身。昭和初期、道内で高まっていた焼酎の需要を見込み、また、産業振興も目的に、当時生産過剰だった道産ジャガイモやでんぷん粉を原料とした焼酎造りをスタート。45年に現社名に変更し、60年に発売した国産の原材料にこだわった甲類焼酎「サッポロソフト」は、クリアで飽きの来ない口当たりが全国の焼酎ファンの心をつかみ、半世紀以上に渡って愛される看板商品となった。81年から道内各市町村より製造依頼を受け、地域の特産物を原料にした本格焼酎造りに意欲的に取り掛かりノウハウを蓄積。2006年に厚沢部工場を稼働させ、長年培った技術を生かす本格焼酎造りを拡充させた。このほか、乙部町など桧山地区産ブドウを使用する「乙部醸造ワイン」、ブレンデッドウイスキー「サッポロウイスキー」、全国梅酒品評会で銀賞を受賞した「北海道産ブランデー仕上げ梅酒」など全国に名をはせる銘柄を手掛けている。
サツマイモ生産からスタート
オール道産の焼酎が誕生
「喜び多きふる里、北海道」をコンセプトにした本格焼酎「喜多里」の製造は2003年にスタートした。全国的な本格焼酎ブームが北海道にも到来するのを見越して、道産原料を使用する焼酎製造を検討。取り引き先の厚沢部町農家へサツマイモ生産について相談したところ、「出荷ラインには乗せていないが、自宅用に生産していて味も良い」との返答を受け、農家協働のもと、2000㎡の畑で焼酎づくりに適したサツマイモ「黄金千貫」の試験栽培に着手した。試行錯誤を重ね、無事収穫を迎えた黄金千貫は、「北海道でのサツマイモ生産は難しい」との厳しい意見や先入観を覆す良品に。関係者の期待を背負い誕生した本格芋焼酎は物珍しさだけでなく、味の良さでも注目を集め一躍名を揚げた。焼酎造りのリーダー・竹谷秀仁主任補佐は「すべてが手探りでのスタートだった。鹿児島県へ直接足を運び、収穫したサツマイモを確認してもらったりもした」と当時を振り返る。本場・九州にも負けないと自負する焼酎「喜多里」は、現在、厚沢部町産「メークイン」、同町と今金町産の「二条大麦」を原料にする種類も製造中。
機械と手作業を使い分けいつも通りの味を完成させる
2006年に稼働した厚沢部工場は産地直結の「喜多里」専用生産工場で、原料加工から麹造り、蒸留、熟成までを手掛ける。芋焼酎用のサツマイモは関連会社「農業生産法人株式会社ノアール」を立ち上げ、町内の契約農家と共に生産している。サツマイモは寒さが大敵のため、仕込みは10月の収穫を終えてすぐ、本格的な冬を迎える前の11月中に手早く行う。手作業でキズなどを取り除き選別した黄金千貫を、1時間ほど掛けて蒸し、程良く冷まして機械で破砕しながら一次醪と混ぜ合わせ発酵タンクへ。温度湿度の管理を徹底し醸した原酒は、クセや雑味が少なく軽やかな口当たり。蒸留器から最初に取れる〝初垂れ〟で、いつも通りの味に仕上がっているかをチェックした後、さらに寝かせて熟成し、まろやかな風味へと変化させる。原酒のまま一部を地下貯蔵室の甕に入れて貯蔵するほか、札幌工場へ運び瓶詰め。竹谷主任補佐は「安心安全なより良い酒を目指し、ブラッシュアップを続けていきたい」と、真摯に焼酎造りに向き合っている。
札幌酒精工業株式会社 厚沢部工場
厚沢部町鶉383
☎0139‐65‐2500
https://www.sapporo-shusei.jp/
ハコラク2023年1月号掲載