“地場造り”にこだわり、その土地ならではの魅力を発信
素材の味を生かす加工技術で地元に根差す企業に発展
北海道産の原料を中心に、イカの粕漬けや松前漬け、乾燥珍味など水産加工商品を幅広く製造・販売する「ヤマチュウ食品」。地元の海の幸の魅力を引き出す加工商品の製造を目指し、2003年に会社を設立。奥尻町産のウニと天然ならではのやわらかさを生かしたアワビを惜しみなく使い、生ウニのような食感と味わいを実現した「昆布〆あわび入り粒うに」は、2015年度の北海道加工食品コンクールで北海道知事賞を受賞。2017年にはさらにウニの甘みを引き出すため、昆布エキスを加えた「うに丸」で同賞を受賞するなど、3年連続で粒ウニ商品が表彰を受けており、2018年には健全な地場産業として農林水産業と連携し、地域産業の発展に貢献した企業として、食品産業優良企業等表彰より「農林水産省食料産業局長賞」を受賞した。宇苗社長は「納得のいく味を作り続け、少しでも雇用の場が生まれたら」と、本社のある函館市の花園工場のほか、近年は日乃出町、せたな町へと工場施設を増設。日乃出工場直売店には津軽海峡を一望するカフェスペースも併設し、観光客や地元の人たちに憩いの場を提供している。
漁師の父と取り組んだ粒ウニの商品開発
「粒うに」の原型が誕生したのは50年前の奥尻島。漁師だった父親の下、学生時代から漁に出ていたという宇苗社長は、ウニやアワビなど奥尻町特産の鮮度の良い魚介を食べて育ったが、当時は冷蔵庫が普及していない時代。ウニの保存方法は、蒸したり、干したりするのが一般的で、新鮮な生の状態の味や食感を伝えるのは容易ではなく、「奥尻の良い物を本来の味で食べてもらいたい」と父親と共に2年がかりで商品の開発に取り組んだ。それまでは考えられなかったというウニを水に通す手法を用い、塩分濃度、水温、漬け込み時間を試行錯誤。添加物を使わず塩だけで漬け込みたどり着いた味は、ウニの持つ濃厚な甘みが一層際立ち、冷凍技術の進化により長期保存が可能になった現在では、解凍後も生ウニのような粒立った食感を残す独自の加工技術を築き上げた。「粒うに」から始まった地場の素材を生かす精神はほかの商品にも受け継がれ、「函館、奥尻を始め、それぞれの土地の素材でハッとするような物を作り、世の中に広めたい」と新商品開発への挑戦も続けている。
地域の活性なくして会社なし作る喜びを次世代にも届ける
「ウニにしても昆布にしても、一生懸命取ってくれている人がいる。物を大切にしなければ良い物は作れない」と話し、工場で粒ウニの手詰め作業を自ら行っている宇苗社長。イカの不漁や、漁師人口の減少など、水産現場には課題も多いというが、「地域の活性化なくして会社は成り立たない」と、道の駅「しかべ間歇泉公園」を運営する株式会社シカベンチャーに協力し地元の天然根昆布を使った「根昆布だし」の製造を請け負ったのを皮切りに、道内各地からの依頼を受け、各土地の特産物を使った商品開発にも力を注ぐ。今年2月からは〝地場造りシリーズ〟として函館市産真昆布とガゴメ昆布を使った「昆布だし」の販売もスタートし、青森県産の黒ニンニクとガゴメ昆布やアカモクから開発した健康飲料の販売も行う。「地場の素材で開発した商品が大きく成長すれば、若い人たちも商品加工に興味を持てるかもしれない。地元の物で商品を作る喜びや、売る喜びを伝えたい。まだまだやりたいことがある」と、北海道の将来を見据えながら、新たな構想を絶えず膨らませている。
有限会社 ヤマチュウ食品
函館市花園町25‐3(本社)
☎0138‐83‐6531
問い合わせ時間9:00~17:00
土・日曜、祝日定休
ハコラク2020年5月号掲載