見る者の心を動かすリアルを追求し
思わず食べたくなるミニチュアを
大粒のイクラがこぼれ落ちそうに躍る丼、思わず泡をすすりたくなるビール、焦げる匂いまで漂いそうな焼き魚…片手の中にすっぽりと収まるミニチュアフードを見つめていると、樹脂粘土で作られていることを忘れそうになる。玉木さんの作品のテーマは〝食べたくなるミニチュア〟。本物の陶器を器に使い、約1/12スケールで再現される料理の数々は、「実際よりも大きな具材がゴロゴロと入っていたり、指でつついてみたくなるような動きがあったり、見た人の気持ちを突き動かす何かをデフォルメに込め、〝おいしそう〟という心情的なリアルを作りたい」と、形の精密さだけでは出せない食欲そそる表現も魅力だ。
制作の礎となっているのが、子供の頃から続けてきたプラモデルや模型作り。得意とする揚げ物の衣部分の再現には、模型作りの失敗から生まれた方法を使うなど、独自の材料や技法も作品の特色の一つになった。3年前に始めた通信販売が反響を呼び、全国のデパートの催事に定期的に呼ばれるようになると、ミニチュアフードだけでも制作数は大変な量になったが、今でも模型作りは大切な息抜きという。「一作品に神様が降りてくるのは1度だけ。再販出来る物もあるけれど、2度と作れない物も多い」と一つひとつに気持ちを乗せて制作に取り組む玉木さん。わずか数cm四方に納まる小さな作品には、人々の視線を釘付けにし、心を浮き立たせる不思議な力が宿っている。
(ハコラク 2020年7月号掲載)
工房 萬
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