国道5号線近くの函館市昭和3丁目に、函館のいかめし製造業界を牽引するヱビスパックがあります。1968年、乾燥珍味を加工販売する対馬商店として創業した同社は、75年はじめ、真空パックの技術をいち早く取り入れると、日本で初めてとなる真空レトルト「とうもろこし」や「いかめし」を世に送り出します。78年には、「真空パック」と、商売繁盛の「ヱビス」由来の、ヱビスパックと社名を変え、現在に至ります。
創業者を父に持つ、代表の対馬正樹さんは、自宅が工場だったこともあり、母の配達の手伝いをするなど加工場を生活の一部として幼少期を過ごします。地元の水産高校での実習経験が心に残り、大学卒業後は、自然と食品業界に引かれるように、ニチロ(現在のマルハニチロ)へ就職しますが、定年まで勤め上げるか、家業を継ぐかを悩む日々。「いかめしと真空パック、この2つは後世に残したい」と26歳で地元函館へ帰郷を決意し、家業への無償の愛を胸に、同社へ入社をします。
営業マン時代に経験した「あの時電話していれば、あの時訪問していれば」という後悔はするまいと、失敗を恐れず、やれることは何でもチャレンジします。そうして誕生した主力商品の「魚めし」。近年続くイカの不漁により、郷土食であるいかめしの存続が難しくなる中、自社の製造技術をヒントに、魚の腹に米を詰めた、いかめし以来約40年ぶりとなる新商品「魚めし」を誕生させます。同時に「いかめし」を「技術」という形で残すことを可能にし、入社当初に描いていた、対馬さんの強い思いがひとつの形となって実現します。
趣味は資料館めぐりという対馬さん。「当時の人々の生活や文化へ思いを馳せることが楽しくてしょうがない」と笑顔で話します。だからこそ、地元函館の食文化でもある、いかめしへの思いが人一倍強いのでしょうか。「昭和にいかめし、平成に魚めし、令和の時代にも新たな商品を残していきたい」と意気込みます。いつしか函館の食文化を残した偉人として、対馬さんもまた、思いをはせる人物になる日が来るのかもしれません。
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道南でつくられるこだわりの食品を集めた通販サイト「道南地元市場」を運営するロカラ(函館市鍛治1、中川真吾社長)のスタッフが各地のつくり手たちのもとに足を運び、生産者の思いをまとめます。(毎月第3日曜日掲載)