味と品質を何より大切に100年先も愛される商品を
函館生まれの洋食をレトルト商品で全国へ
144年の歴史を持つ函館屈指の老舗洋食店「五島軒」。はじまりは東京で商売をしていた初代・若山惣太郎さんが、函館市で外国人を相手に立ち上げたパン店。後に箱館戦争で旧幕府軍として来函し、当時ロシア領事館を兼ねていたハリストス正教会で料理の腕を身に付けた五島英吉さんが総料理長となり、1879年、〝ロシア料理とパンの店〟として「五島軒」が誕生した。その後、2代目の若山徳次郎さんが、ロシア人向けだった料理を日本人になじみやすく変えるため、東京・帝国ホテルで修業し自ら料理長に就任。ビーフシチューに当時手に入りにくかったマッシュルームの代わりにシイタケを使うなど、北海道の文化や食材を取り入れたアレンジで独自の洋食メニューを作り上げた。1990年代には地域の人口減少など時代の変化を受け、函館市末広町の「レストラン雪河亭」の運営のほかに事業の柱を増やそうと、缶詰やレトルト商品、洋菓子製造を担う自社工場を北斗市に設立。〝レストランの味を全国へ〟をテーマに、食品製造を本格化し、主力事業の一つに成長させた。1989年に天皇皇后両陛下に提供したことでも知られる「リッチ鴨カレー」や「イギリス風カレー」の缶詰は、40年以上にわたり贈答品として愛され、また、レストランのまかないから家庭向けに考案した「函館カレー」に代表されるレトルト商品は、ご当地レトルトカレーの先駆けとして全国区の人気を誇る。中でも「函館カレー中辛」は道内で販売されるレトルトカレーの中で売り上げ額1位を獲得するなど、地元でも高く評価されている。
こだわりの味を身近に届け市民に愛される企業に
五島軒のカレーの根幹を担うのは、牛骨と丸鶏、ハーブ、野菜を約6時間煮込むブイヨン(洋風だし)。北海道産の豚肉や野菜がゴロッと入った「函館カレー」は、年間約95万食を製造しているが、ブイヨンの取り方やスパイスがダマにならないようルウを練る工程は、使用する釜が大きくなる以外は工場でもレストランと変わらぬ製法にこだわり、歴代の総料理長や本店で腕を振るった料理人がひと釜ずつテイスティングしながら、徹底して味を守っている。5代目社長の若山豪さんは、「かつて五島軒にはファミリーレストランのように地元の方が気兼ねなく利用できる店舗がいくつもあったが、今は観光需要がメインの店舗が多くなった。もう一度地元に愛される五島軒を目指さなくてはいけない」と、2022年、同社の原点といえるパン製造事業を再開し、「函館カレー」を使ったカレーパンや角食を発売。今年4月には第一工場に併設し、製造の過程で生まれる菓子の切れ端(クラム)にひと手間加えたカップケーキや焼き菓子を格安で販売する無人店「GOTOKEN CRUMB+」をオープンさせた。「変わらず〝おいしいね〟と言っていただくためには、老舗こそチャレンジが大切。五島軒を守るためにも、社員とともに函館の街を盛り上げていきたい」と、100年先を見据えた経営に取り組んでいる。
株式会社 五島軒
北斗市追分3‐2‐19
五島軒第一工場 販売部
☎0138‐49‐8866
問い合わせ/9:00~17:00
土・日曜定休
ハコラク2023年10月号掲載