ふと思い出しては来たくなる
いつも変わらず待っていてくれる場所
繁華街の中通りに暖簾を揺らし47年。本町地区最古の焼き鳥店と言われる「やきとり とん兵衛」には、昭和にタイムスリップしたような独特の時間が流れる。朗々と流れる演歌と歓談の声が交じり合うカウンターの上には、ちょうちんや大小さまざまなひょうたんに、ひょっとことおかめの面など客から贈られた縁起の良い品々が所狭しと飾られている。
伊藤さんが初めてこの店を訪れたのは20代の頃。バブル景気の時代には、職場の先輩に連れられ毎週のように通ったこともある思い入れが深い場所だ。仕事や育児に忙しく過ごすうち月日は流れ、今では当時の飲み仲間とはなかなか会えなくなったが、「この店は変わらない味と変わらない雰囲気で、いつでも待っていてくれる。最後に来た時からどんなに間が空いてしまっても、ふと思い出すのがここ」とほほ笑む。秘伝のカレーダレが食欲をそそる焼き鳥をはじめ、おでんやギョーザといった料理の数々は「どれを食べてもおいしい」と繰り返し語り、通しだけでもビールが進むお気に入りの味。店を一代で築き上げた名物ママ・外ノ岡一衣さんに会いたくなるのも通い続けるポイントで、何十年と変わらずママを支えるスタッフも〝あいちゃん〟〝けいちゃん〟と親しまれ、気取らないもてなしが居心地良いという。
店の長い歴史から常連客ばかりと思われがちだが、評判を聞いて訪れる若い人や懐かしさから久々に暖簾をくぐったという人も多く、カウンターに座っていると男女年齢さまざまな客で次々と席が埋まっていく。楽しそうな声を響かせながらママを中心に一見も常連も関係なく自然と人の輪ができる様子は、この場所が愛され続ける理由をよく物語っている。「本町で若い時から通ってまだ残っている店はここしかない」とリラックスした様子で話す伊藤さん。どんな時にもあたたかい気持ちにさせてくれる、心の故郷と言える店だ。
(ハコラク 2020年3月号掲載)
やきとり とん兵衛
函館市本町10‐17
☎0138‐55‐5983
17:00~24:00(23:00L.O)
日曜定休
喫煙可
クレジットカード利用可