農業の厄介者が食肉へ新しい食文化として定着を
秋から春にかけての狩猟期間以外は、農業被害の増加に伴い有害鳥獣扱いされ、捕獲しても大半が廃棄されてきた函館近郊のエゾシカに、付加価値を付け、道南の新しい食文化として定着させようと、2022年に佐藤彰彦代表が立ち上げたエゾシカ肉加工施設「ソバージュ ド 函館」。現在は20人ほどのハンターと契約し、仕留めたその場で血抜きしたエゾシカを、肉質が落ちない1時間半以内に搬入してもらい解体。3~5日の冷蔵熟成を経て食肉へと加工し、「函鹿」のブランドで道南の飲食店に販売している。
エゾシカは道央・道東が主な生息地であり、道南で姿が確認されるのは、道央から南下してきた個体のほか、狩猟のために人の手で放たれ繁殖した個体が大多数を占めるという。ジビエハンターとしても活躍する佐藤代表は木古内町出身で、高校卒業後に料理人として札幌市や函館市内のレストランに勤務していた。帰省した時、実家の田畑でエゾシカによる農業被害を目の当たりにし、飲食店で働く傍ら狩猟資格を取得。17年からハンターとして活動を開始した。「豊富な餌場と道内でも比較的温暖な気候に恵まれた函館市内のエゾシカは、たっぷりと栄養を蓄え、食材としてのポテンシャルが高い」と佐藤代表。だが、捕獲したエゾシカを持ち込んでいた「ソバージュ ド 函館」の前身である「神威ジビエファクトリー」では、加工した肉の多くを道央の二次加工会社に出荷し、道南での流通は少なかった。そこから「せっかくの良い肉を地元の人にも食べてもらいたい」と決意。「神威ジビエファクトリー」の事業を継承し、現社名に変更すると、道南の飲食店を中心に販路を拡大してきた。
北海道が推奨する「エゾシカ衛生処理マニュアル」に沿って適切なプロセスを踏み、料理人の目線で加工された肉は滋味豊かで繊細な風味。季節によって肉質に若干の差異はあるが、一年を通じて安定した品質を誇り、「函鹿」の名が広まるとともに需要も高まりつつある。オンラインショップも手掛け「いつかスーパーで当たり前に買える肉になってほしい」と夢を膨らませている。
(ハコラク 2024年1月号掲載)
ソバージュ ド 函館
函館市銭亀町342‐3
☎0138‐85‐8730
090‐5222‐6996
9:00~18:00
不定休
P有り
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