【江差】道指定の有形民俗文化財で、江戸時代に廻船問屋の商家だった「横山家」(姥神町45)が、5月31日の営業をもって休館する。8代目の横山敬三さんが3月に73歳で急逝し、館内の案内や名物「にしんそば」の提供が難しくなったためだ。再開の見通しは立っておらず、遺族は「建物を保存していきたいが、個人で続けていくのは難しい」としている。
横山家は明和6(1769)年、初代宗右衛門が能登(石川県)から移り住み、漁業や廻船問屋などを営んだ。北前船で運ばれてきた米や日用品を保管した土蔵、帳場など当時の商売の様子がうかがえる。
母屋や土蔵など建物7棟と生活用具149点が合わせて保存されている点が貴重として、1963年に文化財の指定を受けた後、一般公開するように。敬三さんの母、けいさん(故人)が考案した「にしんそば」も訪問客に愛された。
敬三さんは東京の大学卒業後、都内のホテルで務めていたが、20年ほど前にけいさんを介護するため、横山家に住み込んだ。けいさんが2003年に亡くなると、8代目当主として館内の案内やそばのたれづくりなどをこなした。
兄の弘さん(80)=奈良県在住=によると、3月30日、北前船の交易先を訪ねる旅の途中、島根県松江市のホテルで急性心臓疾患のため亡くなったという。毎年4~11月に館内を公開しており、バスツアーなどの予約はすでに来ていたため、弘さんが館内の案内役を担うなど公開を続けてきた。
ただ、6月以降は「兄妹は高齢となり、後を継いで案内やそばを提供できる人がいない。公開を続けるための修繕費をねん出していくのも難しい」(弘さん)と休館を決めた。弘さんは今後の方向性について、「町などの関係機関と協議したい」と話す。
江戸時代にニシン漁で栄えた歴史が昨年、道内初の日本遺産に選ばれた江差町。町は「休館は残念だが、あくまでも民間の所有物なので、今後の推移を見守っていきたい」としている。(深津慶太)