スマホを使った新しいゲームが世界中で話題になっている。大変なことになったと私は思う。目の前で演奏しなくてもどこでも音楽は楽しめる。テレビはいつでも画像を配信している。思えばそんな便利さと楽しみを享受して久しい。だが、現実と仮想の境界は明確だった。想定外の事故がきっと多発する。その前になんらかの議論と対策が急がれよう。
紙面で漫画を読むだけの時代、主人公の動きや声を読者は想像した。それがテレビや映画になったことで想像力は無用になった。現実離れした美少女キャラクターに恋こがれる人もいる。「スター」は銀幕や画面の向こうにいたはずだったが、今は、会いに行き、握手もできるアイドルが増えた。日常と非日常、現実と非現実の境界は限りなく曖昧(あいまい)になった。
毎週土曜日の昼、お寿司屋さんでデートしていた義父を亡くして一カ月、土曜の午後がさびしい。だがふとした瞬間、義父の声や笑顔が浮かぶ。すでに他界した義母や実父も頻繁(ひんぱん)に私の暮らしに登場する。日々の喜怒哀楽の折々や、何か困った時など記憶によみがえっては、私を支えてくれている。
だがより大事なことは現実に「いる」人たちとの関係である。手を伸ばしてその温もりに触れる安心感を大切にしたい。五感を研ぎすませ、季節の香りを感じ、味覚や盛り付けなどを話題にし、ともに食事をすること以上の楽しみがあるとしたら、実にさびしい。(生活デザイナー)