「花椿」という化粧品会社のPR誌がある。1924年創刊当時のコンセプトは日本の女性に欧米風の生活文化情報を伝えることだったという。そう言えばシャネルが愛したモチーフもカメリア。椿である。仕事を持ち、颯爽(さっそう)と生きる女性のための洋服作りを目指したシャネルにとって、美しさと強さを併せ持つ椿は自分のデザインにぴったりの魅力的な花に見えたに違いない。花椿もシャネルも、凛とした椿に現代的な女性のイメージを重ねたのだろう。
今回いくつかの仕事で椿を使いたくなり、千葉から大量に取り寄せてもらった。それから2週間、寒い玄関で保管したり、暖かい部屋に移動させたり、枝を広げたり、水切りしたりと、一輪でも多く咲かせたくて世話を続けた。そのかいあって小さい蕾も膨らみ徐々に開花し始め、女正月の集いや自宅のレッスン等で良い仕事をしてくれた。
日本の花と言えば桜を連想する人が多いと思うが、寺社の祭祀に登場するのは圧倒的に椿である。大きな花の美しさだけでなく、枝の強さや葉の艶やかさ、実からとる有用な油など魅力満載の椿は、邪気払いや厄よけなどを期して信仰とも結びつき古くから大切にされてきた。ぽとりと落ちる花首を気にする向きもあるが散らない花はない。散り方の違いで仕方ない。それを上回る魅力がある。立春を前にしてのこの寒さ。強い椿にあやかりたい。(生活デザイナー)