寝不足が続く。オリンピックが面白い。1964年の東京オリンピックの話をすると笑われるが、チャスラフスカという体操の選手の美しさに仰天し、アベベというランナーには驚愕した。日本人の競技だと思っていた柔道でヘーシンクが優勝した時は、子供なりに慌てた。
そして、オリンピックは国の威信をかけての戦いでもあり、大変な重圧だということも知った。だがいつしか、メダルに手が届かなかった選手たちもオリンピックを「楽しかった」と振り返る時代になった。その是非は議論があろうが、スポーツなら勝ち負けがあるのは当然。勝つために最善を尽くしても、どちらかは必ず負ける。相手が強ければこちらが負ける。仕方がない。
レスリングの吉田沙保里選手が負けた。だが彼女にあこがれ、彼女の背中を見て学んだ後輩たちが大勢、金メダルを手にした。この場面を見ることができたことを私はうれしく思う。負けるはずのない大先輩が負けた。誰にも負けがあることを後輩たちは知った。金メダルを胸にした後輩たちに、今そのことを教えることができたのは吉田選手だけである。
できれば涙は見せてほしくなかったが、あの涙の意味もまた後輩たちの胸に深く刻まれたことだろう。世代交代はどの世界にもある。その時期を見定めるのが難しい。「まだできる」うちに去る勇気はなかなか持てないが、余力のある引退こそ、たくましい後輩を育てるのではないかと私は思っている。(生活デザイナー)