函館市は西部地区の街並みの維持・保存に向けて、歴史的な建造物の老朽度調査を進めている。建築の専門家が建物の内外の寸法を測ったり、傷んだ場所を調べ上げて適切な修繕計画を立案し、所有者に提示する事業。2年目の本年度は12件を予定し、8月末から現地調査を進めている。
函館の建造物群や街並みは開港以降、いち早く取り入れた西洋文化と、幾多の大火を繰り返すことによって形成され、多くの観光客を引きつける資源となっている。
ただ、120件を越える伝統的建造物や景観形成指定建築物の半数以上が築100年を超える状況で、維持補修と次世代への継承が課題。昨年度から調査を実施し、必要な修繕方法のアドバイスや概算費用の算定などをまとめる事業を進めている。
調査は市の景観整備機構指定団体「NPO法人はこだて街なかプロジェクト」(山内一男理事長)に委託。昨年度調査分の11件はそれぞれ維持修繕計画をまとめ、数件の建物で既に修繕が進められたほか、今後の改修計画を立てた所有者もいるという。
本年度の調査は、今年、伝統的建造物の指定を受けた「旧仁壽生命函館支店」(末広町18)や和洋折衷の建物を店舗として利用している「和雑貨いろは」、「旧茶屋亭・付属棟瓦塀」(ともに末広町14)など12件を予定。
このうち、8月末に調査を実施した「川越電化センター」(末広町18、川越誠司代表社員)は、1907(明治40)年建築の大三坂と電車通りの交差点に位置する白色洋風の木造建物で、2階のテラスのアーチ部分が印象的だ。もともとは極東ロシア・アムール川河口のニコラエフスクに始まったリューリ商会の支店として建てられ、その後は商工中金函館支店、食品卸会社の倉庫などとして使用された。
川越代表(54)によると、建物は父で先代の耕吉さん(故人)が84年に取得。当時は建物を覆うようにトタンが張られ、テラスなどは隠されていた状態だったが、商工中金時代の写真などを基に復元した。調査に当たった山内さんは「電車が走る背景としても人気があって、大三坂のとば口に立つ大切な建物」と話す。
観光客の往来も多く、周辺の環境美化も心掛ける川越代表の姉、早苗さん(66)は「古い建物なのでそれなりの苦労はあるが、この建物にいるおかげで全国の観光客と会うことができる。函館には見てもらいたい場所がたくさんある。そんな会話ができるのもこの坂の下にいる楽しみ」と話していた。(今井正一)