函館市浜町の戸井漁港周辺の海岸に大量のイワシなどが流れ着いた影響で、周辺の海水の酸素濃度が海洋生物の生息に適切な水準を大幅に下回る「貧酸素状態」になっていることが、道総研函館水産試験場の調べで分かった。死骸が分解する過程で微生物などにより酸素が消費されたとみられ、海水を利用する養殖施設が周辺にあることから、同水試は今後も調査を続ける。
現場の海岸では重機などを使った回収作業が進められている。海岸を埋め尽くしていた死骸の多くは片づけられたが、砂に混じった魚の断片が腐敗臭を漂わせている。市によると、陸に打ち上げられた約600トンのうち、18日までに約267トンを回収した。今後は海に漂流中の死骸約500トンの回収手段などを検討している。
同水試の板谷和彦調査研究部長らが戸井漁港で行っている測定では、12日には海水1リットル当たりの溶存酸素(=水中に溶けている酸素量)が0・5ミリグラム未満、13日には同2・0ミリグラム未満、15日には同3・3ミリグラム未満と、いずれも魚介類の生息に望ましいとされる基準の同6・0ミリグラムを大幅に下回っていた。板谷部長は今後の見通しについて、回収作業の進捗(しんちょく)や潮の流れなどで変わってくるとし「(貧酸素状態が)いつまで続くかは予想が難しい」と話している。
道南では、14日にも江差町に大量のイワシが打ち上げられた。函館頭足類科学研究所の桜井泰憲所長は、「海水温が下がる時期には南下するイワシの群れが海岸に打ち上げられる大量死が起こりやすい」とし、近年も青森県の陸奥湾などでイワシの大量死がたびたび発生したことから、全国的に見ても特異な現象ではないとする。
海外の一部報道機関が報道した福島第一原発の処理水放出との関連について、道は14日にホームページで否定する発表を行った。桜井所長も「海流の流れる方向からありえないこと」と因果関係を否定。近年は日本近海のイワシ魚群が増加傾向にあることから、海水温低下などに伴う大量死は今後も起こりえるとみている。(神部 造)