道教育大函館校の三上修教授(46)らは、江戸時代中期の松前藩の絵師、小玉貞良が描き、当時の江差町の繁栄ぶりを伝える「江差屏風」を題材に「江差屏風に描かれた動植物」と題した論文を発表した。論文では町内の生態調査や文献調査を通じ、絵中に登場する動植物の推定に取り組んでいる。
2016年から同校は江差町と相互協力協定を結び、地域課題やニーズを現地で調べ、地域と大学が協働し進める「ソーシャルクリニック事業」を展開。学生が同町内でさまざまな活動を続けており、今回の研究はその一環。
三上教授の研究対象は、スズメをはじめとしたまちに住む鳥の生態。事業のスタートをきっかけに三上教授は「江差追分」にも詠(うた)われる同町のカモメの種類に着目。中でも江差屏風には北前船でにぎわい、ニシン漁を盛んに行っている様子のほか、カモメなど多くの動植物が描かれていることから当時の生態を解き明かすことで町内の自然を再発見することにつながると、同年から研究に着手した。
動植物の推定は、描かれている生物種の特徴から読み取る手法と、描かれた年代や季節などから判断する手法を併用。16年7月から17年11月にかけ、三上教授が当時のゼミ生と共に町内の生態調査を実施し、生物種を照らし合わせる検証を行った。結果、オオセグロカモメやウミネコといった水鳥6種、海獣(トド)1種、同町が自生の北限地であるヒノキアスナロなど樹木10種を推定するに至った。
今回の研究を振り返り、三上教授は「他の都市ではまち並みの変化が激しいが、当時と遜色(そんしょく)ない自然が残っている江差だからこそできる面白さがある」とし「屏風が描かれ、現存していることもニシン漁や北前船で財を成したことを物語っている」と分析。「生き物はその地域の一次産業と結びつきが強く、文化の基盤になる。あらためて屏風を見つめてみることで、新しい発見につながる」と話す。
論文は6月1日発行の生き物文化誌学会の学会誌「ビオストーリー」第33号に掲載。発売元の誠文堂新光社ホームページ(https://www.seibundoーshinkosha.net/magazine/science/43040/)から購入可能。(飯尾遼太)