市立函館病院(森下清文院長)は14日、不整脈の一種、孤立性心房細動による脳梗塞を予防するための「ウルフ―オオツカ手術Ⅱ法」と呼ばれる左心耳閉鎖手術に道南で初めて成功したと発表した。執刀した心臓血管外科の石川和徳主任医長は「患者の体への負担が少ないなどメリットの多い手術が道南でもできるようになった」と話している。
心房細動は加齢によって有病率が増える。心房細動になった人は脳梗塞(塞栓症)を起こすリスクが、不整脈がない人の5倍ほど高いことが疫学調査で分かっているという。また、心房細動のときの血の固まり(血栓)は95%以上が左心耳にできることも分かっている。
石川主任医長は「不整脈の治療と左心耳の閉鎖(もしくは切除)をすることで、血栓が心臓の中にできにくくなるという発想のもとに編み出されたのがウルフ―オオツカ手術」と説明する。
不整脈と左心耳の処置を一括して行うⅠ法に対し、今回行ったのがⅡ法。不整脈の治療はせず、左心耳だけ処置する方法だ。切り取ってしまうか、根元をクリップで閉じてしまう方法があり、今回は医療用のクリップで閉じる方法を選択した。
手術は心臓を動かしたままで、人工心肺を使わないことが特徴。「体への負担が少ない低侵襲手術で、クリップを使うことで出血のリスクも減らすことができる」と石川主任医長。
心房細動では血栓の形成を抑えるために抗凝固薬を内服することが一般的だが、薬で血をサラサラにして固まりにくくすることの副作用として出血の危険性が高まる。今回の手術で抗凝固薬を減らすことも可能になる。「手術は脳梗塞の発症や再発の不安、抗凝固治療薬からも解放される可能性がある」とメリットの大きさを語る。
同病院で道南の男性が2月27日に手術を受けた。術後の経過は良好で、1週間ほどで退院したという。手術の実施に向けて、同手術の経験豊富な他病院の医師の協力を受けて準備を進めてきた。
ウルフ―オオツカ手術は、ほかの心臓の病気がない孤立性心房細動の人に限られるものの、石川主任医長は「潜在的な患者は多いと見ている。今回の手術法が周知されることに意義がある」と強調する。(松宮一郎)