第15回夏季パラリンピック・リオデジャネイロ大会は7日(日本時間8日)、リオ市内で開幕した。昨年、彗星のごとく現れたスプリンター、函館本通中出身の辻沙絵(21、日体大4年)は、11日の女子短距離(T47=片前腕切断など)100メートル予選から出場する。函館で始めたハンドボールで瞬発力を磨き、今では日本記録保持者。古里の声援を力にメダル獲得を狙う。 (山崎純一)
辻は七飯町で生まれ、生まれた時から右腕の肘から下が欠損(先天性前腕欠損)していた。小学4年生で函館鍛神小へ転校。5年生の時に友達がハンドボールをしていたのに影響され、同小のかやげクラブに入部。函館本通中では名監督小林礼さん(現市立函館高コーチ)の下でプレー。2年生の時は函館市中体連陸上女子800メートルにも出場。2分34秒71で3位入賞を果たした。高校はハンドボールの名門、水海道二(茨城)へ進み、インターハイや国体に出場した。13年「大学でハンドボールで活躍する」「教員になる」という夢を持ち、日体大へ進学。だが、高校時代に負った左膝のけがで満足なプレーはできず、2年生の夏を迎えた。
日体大は、2020年の東京五輪・パラリンピック大会に、卒業生を含めて、選手70人を出場させることを目標に掲げる。辻には小学生の時から健常者と同じ厳しい練習を重ねて養ってきた瞬発力があり、同大はパラリンピックの陸上短距離へ転向を打診した。
自分のことを障害者と思っていなかった辻にとって夢を絶たれる衝撃だった。電話で相談を受けた小林さんは「(辻の)あの時のテンションの低さは忘れられない」と振り返る。普段は短いやり取りが、この時は1時間ほど話したという。悩んだ辻は、将来は小林さんのような保健体育の教員になる夢に向かうため、さまざまなことを経験しようと、陸上に一歩進んだ。
3年生となり、昨年10月、世界選手権(カタール)の100メートルで6位入賞という好結果。この時、表彰台に上がった日本人選手が表彰台に上がるのを見て、3つ目の夢「パラリンピックでメダルを獲る」に向かうため、陸上へ転部を決意。同12月に陸上部に創設された「パラアスリートブロック」で、水野洋子監督と練習に励んできた。
中学で一緒にハンドボールをプレーした函館市の赤羽早紀さん(22)は「陸上転向は驚いたが、常に上を目指す沙絵らしい」と話す。辻はハンドボールを始めた時、できなかったパスキャッチをこなせるようになると、ハンドボールが好きになっていった。陸上でもフォームなど理論など吸収することを増やそうと努力を重ね実力を伸ばした。「きつい中で止めたら凡人以下」と言い切る。現在は100メートル12秒86、200メートル27秒08、400メートル59秒96で日本記録を持つ。
7月に函館で行われた壮行会で辻は、自分が辞めたハンドボールの関係者から声援を受け、涙を流した。小林さんに「人ってこんなに温かいのですね」と話すと、小林さんは「分かってくれてありがとう。頑張りなさい」と抱きしめた。辻は「ハンドボールを辞めた決断は良かったと思っている。多くの人からの声援と、感謝の気持ちを力にして頑張る。特に400メートルは金を狙う」と古里へメダルを持ち帰る決意でスタートを待つ。