非常勤で教えている大学で、今年も食生活論の講義を開始した。毎年初回は「人はなぜたべるのか」という質問をするのだが、「生きるため」「健康維持のため」「エネルギーを得るため」というのが変わらぬベストスリーである。では、アイスクリームを食べるのは? バースデーケーキは? おせち料理は? と質問を続けると、考えこむ学生が増える。
「今度食事でもご一緒に」と誘う時、それは「あなたとゆっくり話がしたい」という意思表示だろう。話題のスイーツが食べたいとか、人気の店でランチをしたいとか、食べる理由は実に多様である。空腹を満たすとか、エネルギーを補給するためだけではない。だからこそ食事文化の歴史や伝統、食器選びや盛り付け方、流通や食の作法について幅広く学ぶ必要があるのだと私は思っている。
この度のウイルス騒ぎでつらい事はたくさんあったが、外食が制限されたことを挙げる人も少なくない。食事も飲酒も自宅でできる。それでも外食したかったのは、いつもと違う空間で、誰かと話をしながら食べたり飲んだりしたかったからだろう。この期間、かろうじて許された外食は禁酒が原則で、集うなら4人までとされた。「黙食」が勧められ、店を出る時間まで決められ、多くはそれに従った。
この由々しき事態は食文化史に残るように思う。どこで、誰と、どのように食べるかまで規制されたからだ。人間らしい「食」とは何か、それを考える実によい機会だったのではないだろうか。(生活デザイナー)