つくづくうらやましいと思ってテレビを見た。アメリカの大統領報道官、ジェン・サキさんの歯切れのよい演説が流れていた。抱えているのは驚くほど分厚いファイル。色とりどりの小さい付箋(ふせん)がびっしり貼ってあり、真面目さがうかがえた。
番組では、彼女が頻繁に使う「サークルバック(Circle back)」という表現も取り上げていた。持ち帰って再度検討するという意味合いらしい。どんな質問にも堂々としている姿には説得力と安心感がある。
だが、そんな彼女に、まだ小さいお子さんが二人いらっしゃることに触れて、「ママさんなのに」「子供が二人もいて大丈夫か」などとコメントしている番組もあり、少なからず驚いた。男性に対して「小さい子供のパパなのに」とか「家庭と両立できるか」など質問する人はいないだろう。性別や年齢で人を評価しない日は来るのだろうか。悲しいかな、また性差別を発端に新たな騒動が始まった。多様性の担保など、日本では到底無理なようだ。自分が食べるものくらい自分で用意するのは当たり前だと思うが、結婚したら食事は妻が作り、幼い子供を持つ母親は仕事より家庭を優先させるべきだと信じて疑わない若い人を私は大勢知っている。高齢者だけの「誤解」ではないことこそ大問題だと思う。
そんな騒ぎなどおかまいなしに春は来る。桜は北国にも必ず咲き、オリンピックの夏も来る。ジェン・サキさんのような報道官がきっぱり指針を伝えてくれたらいいのにと思わずにいられない。(生活デザイナー)