都道府県をまたぐ移動の自粛が全面解除された。今までも不可能ではなかったが私たちは努めて遠出をしなかった。高齢者や病人がいても見舞いは制限され、何カ月もの間、身内に寂しい思いをさせた人も多いはずだ。罰則がないにもかかわらず、皆真面目だった。
だがまだ終わってはいない。ウイルスの脅威は今までもあったし、今後もなくなることはない。油断していた人類に大きな警鐘が鳴っているだけだ。暮らし方を見直せ、価値観を変えろと目に見えぬ誰かに言われているのだと思う。
価値観といえばマスクが必須の生活になり、化粧の仕方が変わった人が多い。口元より目元に重点を置くという。化粧そのものをやめたと言う人もいる。外出や仕事用の洋服が不要になり、カジュアルなファッションが好きになった人も多い。外食派だった人が料理に目覚めるなど、新たな趣味を見つけたという話も聞く。私も狭い庭に手をかける時間が増え、植物の変化に一喜一憂するのが日課になった。
外出が少し自由になった日、友人が庭に咲いたという薔薇をたくさん抱えて来てくれた。公私ともに多忙なはずなのに、昔から薔薇作りを楽しんでいるという。彼女の知らなかった一面が見えてうれしかった。大きな花冠を支える華奢な茎や自由に伸びた枝や葉が、本来の薔薇の強さや魅力を改めて教えてくれた。満開の薔薇たちは部屋中に素晴らしい香りを放ってくれている。新しい生活を私も探していこうと思う。(生活でデザイナー)