マスクをしても、会話するには2メートルくらい離れたほうがよいという。今は家族であっても、感染が心配な場合は離れて食事をしなければならない。議論が白熱することを「口角泡飛ばす」などというが、そんな状態は言語道断。今は向かい合って話すこと自体、避けるべき状況が続いている。会話だけではない。ちょっと手を貸してとか、何かを手渡すことさえ簡単にはできなくなった。この現状から学ぶことがあるとすれば、私たちがどれほど他者と物理的に接触しながら生きてきたかということだろう。
パソコンや携帯があれば会議も講義も自宅でできる。テレビ電話もあるし、コミュニケーションの手段はいくらでもある。テレビのコメンテーターやゲストたちも自宅から参加している。それなら新型コロナウイルス騒ぎが収束した後も、交通費をかけてスタジオに行かなくてもよいのではないか。大学の講義もオンラインでできる内容は、猛吹雪の場合など、わざわざ大学まで行かなくてもよいだろう。
職種によっては会社の空間さえ不要に思えてくる。だが、情緒的だと笑われそうだが、それでは寂しくはないか。口角泡飛ばすのはどうかと思うが、人が放つ物理的な温もり、同じ空間にいる安心感がいかに大切か、今回の自粛等で皆よく分かったのではないだろうか。手に手をとって喜び合う、ハイタッチする、抱きしめて励ます…。そんな簡単なことの価値が見えてきた。
花屋の店先でしばし足が止まった。本当に春が待ち遠しい。(生活デザイナー)