大学の前期、生命科学の全15回の講義を終えた。教壇に立って生物学を教えることはもうないだろう。非常勤なので来年度も依頼があるかもしれないが、生物に関する講義は今年度でやめようと思う。
理学部の研究生時代に高校で非常勤講師を始めて以来40年、ずいぶん長い年月生物学を教えてきた。その間の科学の進歩はめざましかった。つい先週はiPs細胞でパーキンソン病の治療が可能になるという朗報がニュースをにぎわせた。私が学生時代に学んだ生物学の常識は大きく覆り、仰天するような発見が続いている。中でもiPs細胞の発見には興奮した。細胞はある流れにしたがって変化してゆく。時間が戻ることなどありえないとされてきた。それが、ある操作によって細胞が初期化されるというのだから、にわかには信じられなかった。
不治の病いとされてきた疾患に希望が見えてきたことは何よりの幸いである。そんな新しい情報を学生たちに伝えることは大きな喜びではあるが、次々に発表される新しい研究成果を自分で確かめて理解するには、現状では時間が足りない。
それならば大学を離れて、子育をしている若い方々や子供たちに生物学の基礎の基礎を分かりやすく伝えることに情熱を傾けたほうがよいのではないだろうか。遺伝子ってなに? 炭水化物って悪者? そもそも生きる仕組みとはどういうモノなのかなど、これからゆっくり語っていきたいと思う。(生活デザイナー)