中国の「中秋節」は旧暦の8月15日。今年は10月4日だった。その前後、中国の友人や私の月餅好きを知っている仕事仲間からたくさん月餅をいただいた。
中秋節は中国では「春節」「端午節」と並ぶ大切な日である。観月の習慣は古くからあったが、特にこの季節の満月は美しいとされ、収穫を祝う行事などと重ねて節句になったという。月は日々形を変え、人々に時の流れを知らせてきた。だからこそ完璧な満月には意味があり、円満や豊穣の象徴になったのだろう。
この日、お月見に団子を積み重ねる日本とは違い、小麦文化圏が広い中国では月餅を食べる。餡(あん)は入れるがクッキーやケーキに近い焼き菓子である。私が月餅に興味を持ったのは、餡の種類の多さもさることながら、表面の文字と模様の美しさからだった。
日本でも祝儀の餅や饅頭には、祝や寿の文字の焼き印を押すが、中国が使う文字は福、禄、寿、富、喜、貴、財、吉、祥など多彩。縁起の良い文字に願いを託す人々の思いが熱い。大きな月餅をみんなで切り分けて食べ、家族や職場の円満と無病息災を祈るという。日本の食文化は中国の影響を多大に受けて発達してきたが、お月見に月餅を取り入れなかったのは、日本が小麦ではなく米文化を軸に歩んできたからだろう。
さて今年、月見団子を作った家庭はどのくらいあっただろうか。ハロウィーンはすでに定着し、仮装に夢中になる大人も急増中の日本をどう見たらよいだろうか。中国の揺れない文化継承が本当にうらやましい。(生活デザイナー)