海外出張のお土産に秋田の川連(かわつら)漆器を選んだ。軽く、丈夫にして優美。写真のように洋食器や、おおぶりのグラスと組み合わせると、その存在感がよく分かる。
オイルにも強いので料理を選ばない。これは友達のご実家の工房のもので、お父さまが家業を受け継いでいらっしゃる。後継者の問題はどの分野にもあろうが、家業のある方が私はうらやましい。自分の意志と関わりなく継承しなければならないのは、当事者にとっては想像を超える重圧だろう。だがそれでも、何もない身としては守るべきモノのある人たちに憧れる。
義父を亡くした今年、兄弟のいない夫は帰る家もふるさともなくした。神田の鶏卵問屋に生まれ育った義父は、戦後家業の復興をあきらめて転勤族になり、北海道を気に入って定住を決めた。高齢になってからはあえて賃貸のマンション暮らしを選んだ。江戸っ子らしい潔さから一人暮らしのマンションは驚くほど片付いていて、一つの時代の終わりはあまりにもあっけなかった。
私も同じである。父が健在の頃は祖父の実家がある町がふるさとのような気がしていたが、世代は変わって今は訪ねる家もない。私たち夫婦は世が世ならそれぞれの家の後継ぎの一人っ子だが、時が流れた今、すでに出番はない。
この年齢になって野に放たれ、どこに住んで、何をしてもよいと言われても、さてどうしたものか。幸か不幸か莫大な遺産もない。夫婦でため息の師走である。(生活デザイナー)