関西のカルチャースタジオでも「おもてなし」の講座を担当している。毎回札幌の家から食器など段ボールを数個送っては送り返す。荷造りも荷ほどきも、かなりの大仕事である。格安の旅費よりはるかに高い輸送費に、周囲はあきれている。
写真でも良いのではないかと言われるが、食器は何かを盛りつけた時、そして、手に取って存在を感じた時、はじめてその価値が分かる。試食用には簡易なもので良いが、特に日本の食卓文化を学ぶには「実物」に限る。
それほど日本の器は素晴らしい。洋食器の形は基本的に真上から見ると円形。だが日本には円形の他、正方形、長方形、ひし形、木の葉、貝、魚、花、瓢箪(ひょうたん)、扇など立体的で多彩。脚付き、取っ手付きもある。吉、寿などの文字や植物の他、幾何学模様、風景、自然現象など、その色とデザインの豊かさにはため息が出る。
そして、漆器の美しさも他に比類ない。韓国や中国では箸と一緒にレンゲやスプーンを使うが、日本は箸だけである。これも手に持っても唇に触れても熱くない漆器の椀があったからだろう。今回は30代から50代の女性の参加が多かったのだが、ご実家の古い食器を見直してみたいと大勢に言っていただき、本当にうれしかった。
いつでも捨てられるのだから古い食器は捨てる前にいま一度手にしていただきたい。日本の歴史だけでなく、家族の歴史も読み取れる。捨てる美学が評価される時代に逆行するようで恐縮だが、是非!(生活デザイナー)