【木古内】北海道新幹線開業に伴い、江差線五稜郭―木古内間はJR北海道から第三セクター「道南いさりび鉄道」に引き継がれる。同線の木古内町にある泉沢駅で長年、「花の駅長」として愛されてきた山本金次郎さん(90)が25日で引退する。「65年、良い鉄道人生だったよ」と語り、感慨深い表情を見せている。
山本さんは上ノ国町出身。出兵や漁師などを経て、23歳で旧国鉄に就職した。五稜郭駅では信号機の管理を行い、泉沢駅助役を最後に56歳で退職。1年半後の1982年12月1日からは、旧国鉄から委託されて無人駅と化した同駅の管理や切符販売を現在まで続けてきた。「自分に指名がかかったときはうれしかったね。役場や地元自治体、利用客にサービスを喜んでもらえたようで」とほほ笑む。
午前7時から高校生ら数人の客を見送り、同10時まで駅舎に駐在する日課も、4年前までは妻エキさん(享年85)と一緒だった。「おしゃべり好きで、いたずらをする子どもには厳しく叱り、次の日には優しい言葉をかけた。よく近隣の子どもから『ばあちゃん』と呼ばれて好かれてたよ。切符を売るのを手伝ってくれてね」と懐かしむ。「仲間たちからは、『山本さんは泉沢の〝エキ〟を2つ守ってるよな』って言われたんだ」。
「花の駅長さん」。同駅の乗降場近くに色とりどりの花を育てたことから、こんな愛称で呼ばれるようになった。チューリップやアジサイなど、多彩な花が季節ごとに咲き誇る駅として口コミが広がった。「花をみていやな気分になる人はいないだろうさ。評判が良かったみたいで、いつしかあだ名がついた」とにっこり。車窓を開け、花を眺めて手を振ってくれる人に、大きく振り返した場面は数知れず。「『きれいな花。手入れをしっかりしてるんですね』って褒められると、大切にしようって思えたんだ」
いさりび鉄道開業日からは、旧国鉄OBで泉沢在住の吉田進さん(78)が受け継ぐ。「ここに勤めてから問題は起きず、責任を果たせて本当に幸せだった」と山本さん。最終列車を見送る時を、静かに待っている。(斎藤彩伽)