函館市元町の蒸留酒販売会社「ビハインド・ザ・カスク」(澤田凌代表)による、函館初となるウイスキー蒸留所「ディ・トリッパー蒸留所」が今月下旬から稼働を開始した。来年1月から製造を本格化させ、同年末の初出荷を目指すとともに、12月1日からはクラウドファンディング(CF)に挑戦。地元の著名人からの援軍も得て〝函館発ウイスキー〟を全国や海外に広めていく構えだ。(千葉卓陽)
澤田さん(33)は道内のウイスキー蒸留所勤務などを経て、2020年に青森でカスク社を起業。英国などからウイスキーを買い付けて瓶詰めし、自社ブランドとして販売する事業を進めながら「欧州と同じような空気感を感じた」という函館が気に入り、22年に完全移転した。
ウイスキー蒸留所は、10月に元町から北斗市へ移転したワイナリー「農楽蔵(のらくら)」の跡地に入居。根室管内中標津町から原料となる大麦を仕入れるとともに、ワイン業界で使用され、液体の滞留や断熱性に優れた卵型のコンクリート製発酵槽を導入するなどし、年間6000リットルの少量生産を可能とする体制を整えた。以前勤務した会社の同僚だった山本哲平さん(33)も蒸留技師として4月に加わってプロジェクトを進め、今月16日付で函館税務署からウイスキー製造免許が下りた。
CFは製造費用が高額となることが見込まれるため、運転資金獲得に向けて実施を決めたが、心強い存在となったのがロックバンドGLAYのボーカルTERUさん。蒸留所の建物に直前まで入居した農楽蔵の佐々木賢さん・佳津子さん夫妻との交流を通じてTERUさんとの縁が生まれ、CFへの協力依頼を快諾。黒ネコをモチーフに書き下ろした絵画「オッドアイ」が特別に提供された。
支援コースは約20種類用意。支援は3300円からで、TERUさんの絵をラベルに使用した瓶詰めウイスキー(350ミリ、アルコール度数50度、支援額3万3000円)を準備しており「TERUさんの誕生日(6月8日)にちなみ、608本限定で生産したい」と澤田さん。酒が苦手な人向けにはラベルにした絵が送られるコース(同5500円)もある。また、酒販店向けにはこれまでの取引先や新規取引を希望する店に対して卸販売ができる権利や、100リットルのたるごと購入できる権利などをラインナップした。
蒸留所では年内は試験製造を行い、年明けから本格化させる。ウイスキーの熟成には一般的に3年以上必要とするところを1年で完成させ、来年末の初出荷を目指す。澤田さんは「ワインのように原料に重きを置き、麦の収穫年によってビンテージ化させていきたい。おいしく飲んでいただける仕上がりにしていきたい」と意欲を見せている。
CFはCAMPFIRE社で、プロジェクト名は「函館のウイスキーブランドが挑戦する道産大麦モルト100%の小さなウイスキー蒸留所」。オール・オア・ナッシング方式で、目標金額は600万円。来年1月31日までの2カ月間実施する。詳細は二次元コードを参照(1日から閲覧可能)。