水をテーマに講座を開いた。体内や自然界での働きなど、水の生物学的側面の話題からスタートしたが、水さえあれば守れる命もあるし、海と陸は水でつながっている。命も地球も、水あってのものなのだ。
温帯の国の中では抜群に降水量が多いので、文化的に見ても日本は水の恩恵を多大に受けている。豊かな水が山岳地帯の急勾配を下るため、余計なミネラル分を含まない軟水が多い。昆布や鰹節でおいしい出汁(だし)がとれるのは軟水ゆえである。この出汁が透明だからこそ、中身の具材の美しい切り方や盛り付けが生まれたのだ。
きれいな水は稲作と米文化も支えてきた。日本酒もおいしい水のおかげである。日本各地に水の神様を祭る行事あるのは、水が自然の恵みであるのと同時に、自然災害などの脅威でもあるからだろう。日本の生活文化は水とともに育まれてきたと言っても過言ではないだろう。
着物や食器にも流水模様や流水紋と言われる、水をモチーフにした日本特有の柄がある。流れる水と桜や紅葉などを組み合わせる意匠は、他に類を見ない、誇るべき美意識である。
今回は講義のデモンストレーションに使うため、庭の紫陽花を会場に持ち込んだ。暑さのためしおれてしまったが、水中で切り、流水につけておくこと20分ほどで見事によみがえった。大勢の前でみるみる元気になった紫陽花は、この日一番説得力のある「水の力」だった。(生活デザイナー)