中古の家を買ったとき一番先に決めたのが母の部屋だった。二間続きの和室である。着物が好きなので桐のたんすを並べられる畳の部屋は理想的だと思った。だが、当時80歳の母は畳に膝を折って座るのは大変だと、じゅうたんを敷いて椅子の生活を始めた。
85歳で骨折してからはベッドを使うようになり二間は完全に洋室になった。高齢者には畳の部屋が良いだろうというのはこちらの思い込みだったようだ。現在96歳。足腰はたよりないが、2階の自室へは階段の両側の手すりにつかまって自力で昇降している。トイレもお風呂も手すりに頼ってなんとかなり、家族が手伝う必要はない。デイサービスに行かない日もきちんとお化粧をして身繕う。居眠りの時間は増えたが立派である。
そんな母もこの夏は食事を残すようになり心配な日が続いた。きれいな食卓が好きなので、品数を多くして小さい食器に盛って並べていたのだが、それが良くなかったと気付いたのは最近である。姿勢が悪くなり、食卓全体を見渡せなくなっていた。何度も手を伸ばすのも大変だということも分かった。軽い食器に数種類一緒に盛ってみたところ、手元に引き寄せて完食するようになった。しょう油で味付けた料理は白い器、ポテトサラダや豆腐は濃い色の器、熱い料理は漆器に盛るなど見やすく食べやすいように吟味するのは料理の基本である。
励ましながら食べてもらうのは子育ての時と似ている。食卓のさまざまな基本と知恵を今、高齢の母との生活から学び直している。(生活デザイナー)